【映画】2020年映画ベスト10

2020年に観た新作映画ベスト10です。

⑩『ジュディ 虹の彼方


オズの魔法使』の主人公を演じ、一躍スターになったジュディ・ガーランドの後世を描いた伝記映画。今年を振り返って、普段画面の中で輝きを放つスターも抱えているのかもしれない苦悩に思いを馳せる機会が多かったが、この作品もまさにそんな裏側を見せてくれる。しかし、そんな中でも舞台で得られる輝きや多幸感もまた本当で、特にクライマックスの感動的な一連の流れは、アイマスのライブで幾度か実際に目にしているのもあり、輪をかけて感動した。ちなみに今作を観た後、遅ればせながら『オズの魔法使』を観て、本当に傑作だと思ったが、同時になんとも微妙な気持ちも感じてしまった。順番は逆の方がいい。



⑨『犬鳴村』



「旧犬鳴トンネル近くに、法治が及ばない恐ろしい集落『犬鳴村』があり、そこに立ち入ったものは生きては戻れない」という都市伝説を元にしたホラー。上映中手を替え品を替え惜しみなく繰り出される恐怖演出は、そのどれもがしっかり怖い。怖いのだがあまりに毎回多様な魅せ方をしてくれるので、そのサービス精神に嬉しくなって最後の方は怖がりつつも嬉しくてニコニコしてしまう。真逆のアプローチだがこちらもしっかり作られたNetflixドラマ『呪怨:呪いの家』も併せて、2020年は最新Jホラーを堪能できた。



⑧『イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり



不器用な気象学者が研究のため奔放な気球乗りと協力し、高度世界記録を目指す実話ベースの物語。ホーキング博士とその妻の関係性を描いた『博士と彼女のセオリー』が個人的に好きで、博士と妻を演じた俳優が今作でも共演すると聞いて観た。まず気球メインの映画というのがなかなか無いし、高度が変わるごとに変化していく風景はアトラクション的に楽しい。そしてラストは『ゼロ・グラビティ』のような感慨と安心感、さらに危機を乗り越え生還した2人の関係性が安直な形に収まらないのが何より良かった。ただ「実話」を謳うには強めの脚色が入っているようなので、その点は注意。



⑦『透明人間』



幾度もリブートされている映画『透明人間』最新作。序盤に出てきた道具や展開が衝撃的な形で回収されるなど、伏線の貼り方や布石の置き方が非常に巧みで、無駄のない美しい構成に惚れ惚れする。「透明人間」という題材のフェミニズム的解釈も良くて、劇中ずっと抑圧と恐怖を感じさせれらた分、ラストの爽快感が凄まじい。



⑥『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』



『スーサイド・スクワット』でジョーカーの彼女として登場したハーレイクインのその後を描く。「ジョーカーの彼女」というくびきから解き放たれ、自由に、また軽薄に活躍する彼女が何より魅力的で、見ていて本当に気持ちが良い。『ジョン・ウィック』シリーズでお馴染みのアクション会社「87イレブン」仕込みのアクションも、映画に合わせてポップで楽しい。



⑤『燃ゆる女の肖像』



18世紀末のフランス、画家の女性が結婚の決まった令嬢の肖像画を描くため、ある島の屋敷を訪れるが、次第にふたりは惹かれあって…という話。まさに絵画のように美しく、的確に感情の機微を捉えた画面、スリリングな編集、読めない展開、劇的な音楽使い、これぞ映画ならではと言える衝撃を与えてくれる。



④『ウルフウォーカー』



オオカミハンターの父を持つ少女と、昼は人間・夜はオオカミとして行動できる“ウルフウォーカー”の少女の交流、そしてオオカミ社会の危機を描く。まず非常に尖ったアニメーション表現に感動して、物語に感動して、そしてその両者が深く融合している様に感動して…と、アニメとして本当に理想的な、素晴らしい作品だった。



③『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』



「結局最後に笑うのはアタシらだから」と、名門大学の合格を勝ち取ったガリ勉(ブックスマート)な高校生のエイミーとモリーは卒業を前にほくそ笑んでいたが、遊んでばかりと見下していた同級生も何れ劣らぬ名門大学に進学を決めていた。2人は失われた青春を取り戻すべく、卒業前夜のパーティーに繰り出す。主人公の2人を筆頭に、全てのキャラクターが魅力的で、それぞれ少しずつ共感できる。「多様性」というものが限りなく理想的な形で実現された世界においても、摩擦は起きるし葛藤もある。全ての要素が極めて真っ当で、今後のエンターテインメントの基準となるような作品だが、超笑えるブラックだったり際どいギャグが満載で、終始多幸感が満ち溢れている傑作。



②『パラサイト 半地下の家族』



韓国の鬼才ポン・ジュノ最新作にして、第92回アカデミー賞作品賞受賞作。半地下のアパートに住む貧乏一家が、IT長者の家族に「寄生」していく様を描く。今更何も言うことがないほど評価されきった本作だが、先の読めないストーリー、美しい画面、息もつかせぬサスペンス、巧みに織り込んだ社会性、どれをとっても一級品で、ベストとなればやはりこの作品を挙げないわけにはいかない。



①『ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!』



1989年公開の『ビルとテッドの大冒険』、及びその続編である1991年公開『ビルとテッドの地獄旅行』に連なる29年ぶりの続編。未来で世界を救う曲を作ることになるはずだった超バカな元若者、現中年のビルとテッドは未だその曲を作れずにいたが、いよいよ差し迫った世界の危機を救うため77分25秒(実際の上映時間とリンクしてるのが嬉しい)以内に曲を作らなければならなくなる。何も成し遂げられないまま時間が過ぎていく不安や焦り、いわゆるミドルエイジクライシスは、中年に限らず抱くもの。しかしいくつになっても、思い描いた形でなくとも、何かを成す可能性は常にあるし、今を受け入れ前を向けば道が開けることを示してくれるビルとテッドパート。そして「好き」の気持ちだけでも何かを作り上げていくビルとテッドの娘コンビのパート。ふたつのパートが重なり合い、まさに大円団を迎えるクライマックスには今年1番感動した。極め付けのエンドロール、さらにエンディング後の2人の姿に至るまで、本当に希望が満ち溢れていて、全てがままならなかった今年1年を浄化してくれた最高の映画。「Be excellent to each other! And party on! Dueds! 」



というわけで2020年のベスト10は以下の通り。男性単独主人公の映画はなく、女性主人公の映画が強かった。

①ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!
②パラサイト 半地下の家族
③ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー
④ウルフウォーカー
⑤燃ゆる女の肖像
⑥ハーレイクインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY
⑦透明人間
⑧イン・トゥザ・スカイ 気球で世界を変えたふたり
⑨犬鳴村
⑩ジュディ 虹の彼方に




その他10位に入らなかったけれど良かった映画もざっくり紹介。去年観た映画はだいたい良くて、挙げていくときりがないので、とりあえずすぐ思い出すあたりを。

『フォードVSフェラーリ
1966年のル・マン24時間レースを描いた作品。まさに「男の世界」で非常に楽しかったと思うのだが、なにぶん2020年前半の記憶が薄れているのでまた今度見返す。

アイネクライネナハトムジーク
伊坂幸太郎の小説の映画化。公開自体は2019年なのでランキングからは除外したが、年末年始、結婚に対してスレた心を癒してくれた。そして何より、三浦春馬さんのご冥福をお祈りします。

『スパイの妻』
間違いない黒沢清枠。どんどんとパワーバランスが変化していく夫婦の関係性がとてもスリリングで、特にどこまでも自分の欲望に忠実で合理的に突き進む聡子の有り様は痛快だった。

『はちどり』『82年生まれ、キム・ジヨン『スキャンダル』『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語
10位に入れられなかったフェミニズム的視点を含んだ良作詰め合わせ。



以上が私の2020年ベスト映画でした。今年は数年前から準備されたものがあるからともかく、来年以降の映画はどうなるのかしら。



それではこの辺で。



消灯ですよ。