【MA4】MASTER ARTIST 4 第1弾(春香・貴音・やよい)そこそこ長文レビュー

2020年8月5日『THE IDOLM@STER MASTER ARTIST 4』第1弾として天海春香四条貴音高槻やよいの3タイトルがリリースされたので、それぞれレビューしていきます。

まず全体として、765プロ(いわゆる765AS)として前作『THE IDOLM@STER STELLA MASTER ENCORE shy→shining』からおよそ2年ぶり、さらに『MASTER ARTIST』シリーズとしてはシリーズラストの『THE IDOLM@STER MASTER ARTIST 3 FINALE Destiny』からおよそ4年半ぶりに満を持してリリースされた今作ですが、全体的に比較的あっさりした印象の仕上がりとなっていました。ランニングタイムも短いですし、ドラマも短く、良く言えば聴きやすいとも言えるでしょう。

特に『MASTER ARTIST 3』以降リリースされた楽曲は、概ね全体曲かユニット曲で、非常に攻めた楽曲群を生み出した『MASTER PRIMAL』シリーズ(2017)を筆頭に濃い楽曲が続いていた中、今作はソロかつそこまで尖った曲があるわけでもないので(『マジで…!?』はありますが曲自体はそこそこ前からの既出ですし)、どうしても薄味に感じてしまうところはあります。(ちなみにソロ新曲のジャンル的には春香・貴音→ロック、やよい→ダンスミュージック寄りということで、ソロ新曲は『MASTER PRIMAL』シリーズの流れを汲んだ楽曲になっていくと予想されます)

だから内容も薄いのかといえば、そういうことでもありません。

まず、改めて驚かされるのが一聴しただけで「アイドルマスター」を感じさせ、本当に生きているような圧倒的存在感を持った唯一無二の歌声を全員が備えていること。言葉ひとつひとつにキャラクターを感じられるニュアンスがあり、それは年々濃くなっています。今回の共通曲はそれぞれの個性が特に分かりやすいのもあり、これまで以上に各キャラクター聴き比べがいがあると思います。

次に歌詞。今回の新曲(『マジで…⁉︎』は既発なので除外)は『New Me, Continued』が非常に分かりやすいですが、ソロ新曲も含め、全て「再出発」を意識した歌詞になっています。単純な「仕切り直し」ではなく、これまでの年月を踏まえた上で、新たなスタートを切って未来に向かうのだという意思が全体を通して明確に示されているのです(特に後者については新曲の歌詞全てに「未来」という言葉が入っているほど)。

最後にカバー曲。各所でキャスト自身の口から語られているように、今回のカバー曲は各アイドルのキャスト自身が中心となって選曲しています。これは今までになかった試みかと思います。これはつまり、共通曲を除いた各キャラ個別の楽曲3曲のうち2曲の選択キャストが関わっているというわけで、かなり大きな部分をキャスト自身が「プロデュース」したCDとして見ることもできるのです。キャストがどんな思いでカバー曲を選曲したかを考えながらカバー曲を聞くと、味わいが何倍にも増してくるでしょう。

特に後者2つの要素は、普通に聴いていると分かりづらいところではあるので、その点も踏まえて各タイトルをレビューしていきます。

ちなみに全曲試聴がYoutubeに公式で上がっているので、全部貼りたいところではありますが、そうしているとキリがないし長くなってしまうため、各1曲ずつ気になるものを貼るにとどめておきます。




01 天海春香




・『I'm yours』作詞・作曲・編曲:宮崎誠

MASTER ARTIST 4』全体を通じて最初の1曲となるこの曲は、モチーフとして「声」が扱われており、聴くとまず春香の「また歌える喜び」そしてその歌を「また聴ける喜び」に溢れた、まさに「再出発」にふさわしい楽曲になっています。

そして、後述しますが貴音・やよいのソロ新曲および共通新曲『New Me, Continued』は「再出発」に加え「変化」を意識した歌詞なのですが、この『I'm yours』だけ唯一「変わらないもの」を歌う歌詞になっています。未来に向かう姿勢では他の新曲と一致していますが、その中でも変わらない芯をここで春香が一本通すことで、その先で心置き無く変化を歌えるという、シリーズの中でも核となる曲になっていくと思います。

また楽曲としては、「声が聴ける喜び」を歌う歌詞ということもあり、ライブで聴いた時の感慨はとりわけ大きいものになるでしょう。特にCメロ最後の1節「いつでも呼んで 私の名前を」の直後に無音が差し込まれるのですが、ここは明らかにライブで観客側が「春香!」と名前を呼ぶことを意図した作りになっています。そこにはまたライブができること、そして名前を呼んでくれる観客(プロデューサー)が居ることへの信頼が含まれるわけで、『START!!』の作曲者であり、『BRAVE STAR』で非常に熱い歌詞を提供した宮崎誠さんの素晴らしい仕事ぶりが感じられます。


・『明日はきっといい日になる』(オリジナル・アーティスト:高橋優)
・『卒業写真』(オリジナル・アーティスト:荒井由実)

これらカバー曲の選曲の意図については、春香役の中村繪里子さんが出演した「THE IDOLM@STER MUSIC ON THE RADIO」95回のおまけ放送で非常に詳しく語られているのでそちらを聞いていただくとして、あくまで曲の印象としては春香の素のキャラクターに近い『明日はきっといい日になる』と、『笑って』や『さよならをありがとう』のように切なさをたたえたラインとしての『卒業写真』で、春香の様々な側面を楽しめるバランスのとれた選曲になっています。その上で現在の情勢やアイマス全体に対する思いも盛り込まれており、いろいろな面で考え抜かれたこの選曲は、やはりアニメ以降の「センター」天海春香および中村繪里子を強く意識させます。


・『マジで…!?』作詞:BNSI(くぼけん・エトウ) 作曲:BNSI(佐藤貴文)

ここまでの3曲がそれぞれ込められた思いを強く感じるものだった分、この曲でのハジけた感じがより際立っています。大方の期待に応えて「MAGIC DAY YEAH BYE!」を「マジでやヴァイ!」と発音してくれているのが嬉しい。


・『New Me, Continued』作詞:八城雄太 作曲:俊龍 編曲:Sizuk

「再出発」「変化」を極めてエモーショナルにエモ歌詞職人の八城雄太氏が綴ったこの歌詞を、歌の表現力(歌で思いを伝える力)では抜きんでたものがある春香が歌うとなれば、それは当然深く心に刺さるものになります。個人的な好みでは、メッセージかストレートに伝わるこの春香のバージョンが1番好き。


トップバッターとなる春香ですが、ソロ新曲・カバー共に今作の意図が現状最も分かりやすい形で表現された『MASTER ARTIST 4』を象徴するような1枚になっていると思います。



02 四条貴音




・『炎ノ鳥』作詞:井筒日美 作曲・編曲:渡部チェル

これで高音のソロ曲のタイトルに花鳥風月が揃った!と話題のこの楽曲。正確に言えば「花」→『フラワーガール』(MS)『風花』(MA2)『恋花』(LTP)、「鳥」→『炎ノ鳥』、「風」→『風花』(MA2)、「月」→『月ノ桜』(ぷちます2期)『ふたつの月』(MA3)と複数被っている曲があるので実際は「花花花鳥風月月」となります。また、『風花』を字面でなく意味でとって「雪(風花=晴れ間に雪が舞う様)」として、これまでは「雪月花」あるいは「雪月風花」(どちらも「花鳥風月」同様、四季の自然の美しさを表す熟語)が揃っていたとする見方もありますが、「雪」は『Princess Snow White』(ぷちます1期)もありますから「雪雪月月花花花」「雪雪月月風花花花」となります。要するにこれらのモチーフは最初から継続して用いられてきたわけで、今作もその流れを踏襲したということにすぎないと思います(そこで逆に際立つのが全く流れを汲まないタイトルのLTH曲『addicted』)。これに限った話ではないですが、中身と直接関係ないディテールや目配せが入っていることそれ自体を過度にありがたがったり忌避したりするのは、少々危ない面があると思います。

それで肝心の楽曲そのものについてですが、タイトルにあるように『炎ノ鳥』(読みは「ひのとり」)=「何度も蘇る」不死鳥をモチーフにとりつつ、「違う私、魅せたいの」と歌う歌詞は、やはり「再出発」「変化」を感じさせる歌詞になっています。ちなみに作曲の渡辺チェル氏は765において『咲きませ!!乙女塾』以来の楽曲提供でソロ曲の提供は初めて(ミリオンを含めると宮尾美也『ふわりずむ』で提供)。作詞の井筒日美さんは『コーヒー1杯のイマージュ』以来の提供。振れ幅がすごい。


・『GLAMOROUS SKY』オリジナル・アーティスト:NANA starring MIKA NAKASHIMA
・『焼け野が原』(オリジナル・アーティスト:Cocco

非常にバランスのとれた春香のカバー曲に比べ、どうしても貴音役の原由実さんの趣向を強く感じさせるロック系の2曲が選曲されています。ただそれでダメということは一切なくて、特に原さんの敬愛する「L’Arc~en~Ciel」のHYDE氏が作曲した『GLAMOROUS SKY』での熱の入りようは、この形でしか絶対に味わえないレベルで、かなり味わい深いです。一方の『焼け野が原』も同様にロックな曲調で、その意味での連続性はありますが、歌詞を読むとなかなかヘビーで、どういった経緯でこの選曲に至ったのか想像が膨らみます。


・『マジで…!?』作詞:BNSI(くぼけん・エトウ) 作曲:BNSI(佐藤貴文)

この曲における貴音の歌唱が超面白くて、どう考えても明らかに必要以上の色気を発散していてはっきりエロい。エロいんですけどそもそも曲がコレなので、そのギャップでさらに面白い。この方向でのハジけ方は初めて聴いたのもあって、個人的には一番好きなバージョン。


・『New Me, Continued』作詞:八城雄太 作曲:俊龍 編曲:Sizuk

『GLAMOROUS SKY』や『マジで…!?』も一種そうだとは思いますが、今作の貴音はこれまで以上にボーカルに感情が乗っていて、さらにこの曲は歌詞・曲共に感情を際立てるのも相まって、とりわけその辺りが味わえると思います。


貴音はカバーの選曲含め、我が道を行き、のびのびとした様子がボーカルから非常に伝わってくるのが魅力で、そういった自由さは「MASTER ARTIST2」のあの感じを連想させるようで、やはり貴音らしいものだったのではないかと思います。



03 高槻やよい




・『ピピカ・リリカ』作詞:烏屋茶房 作曲:篠崎あやと・烏屋茶房 編曲:篠崎あやと

「パピプペポ」中心とした音の楽しさに溢れた楽曲ですが、メッセージ性もきっちり込められていて、「ひとつ、ふたつ、叶えた夢が もっと、もっと大きな夢に変わるの」「変わりつづけている ポペプピパラダイム」といったラインをはじめ、ここでもやはり過去を踏まえて未来に向かう「再出発」的姿勢で、「変化」を意識させる言葉が入っています。

ところで今作のトークでやよいの「まめもやし!」からま行の可愛さが発見されたので、今度はその辺りをフィーチャーした楽曲も聴いてみたくなりました。


・『メランコリニスタ』(オリジナル・アーティスト:YUKI
・『手紙 ~愛するあなたへ~』(オリジナル・アーティスト:藤田麻衣子

中村さん同様やよい役の仁後真耶子さんも「THE IDOLM@STER MUSIC ON THE RADIO」94回のおまけ放送でカバーについて語っているのですが、そこで語られたことによれば『メランコリニスタ』は仁後さん主導、『手紙 ~愛するあなたへ~』はスタッフ主導の選曲とのことでした。

『メランコリニスタ』については「曲の良さを大事にした」ということもあり、実際単純な曲の良さで言えば、今回の3タイトル通してもこの曲が1番だったと思います。一方の『手紙 ~愛するあなたへ~』に関してはストレートに感動的ですし、「お父さん お母さん」の「さんっ」の言い方が可愛いらしくていいんですが、子供が子供らしい「感動的な歌」を歌うときに、かえってその背後の「大人」の存在が感じられる現象がやはりちょっと起こっていたように感じます。


・『マジで…!?』作詞:BNSI(くぼけん・エトウ) 作曲:BNSI(佐藤貴文)

前の3曲は比較的可愛さに振っていましたが、この曲はどちらかと言えばかっこよさや力強さに振った歌が楽しめます(可愛いのは当然変わりませんが)。冒頭の「MAGIC DAY…!? yeah bye com’on」のシリアス味にドキッとさせられたりと、貴音もそうですが今作は765の引き出しの多さに特に驚かされます。


・『New Me, Continued』作詞:八城雄太 作曲:俊龍 編曲:Sizuk

比較的アップテンポな楽曲ですが、今回のやよいは優しく語るように歌っていて、アプローチとしては『チクタク』のようなバラードに近い、暖かさを感じさせる歌になっていました。


個人的な好みもあるでしょうが、純粋な音楽的楽しさでいえば今回の3タイトルで1番アベレージが高かったと思います。曲の印象も綺麗に分かれてますし、仁後さんが今作を好きでずっと聴いていると語っていたのも頷ける音楽的な仕上がりになっていました。



というわけで今回のMA4第1弾を全曲レビューしてきましたが、最初でも語った通り全体的に「これまでの年月を踏まえながらも、新たなスタートを切って未来に向かおう。変わっていこう」という強い意志が打ち出されていて、その姿勢は100%応援しますし、これまで765を追ってきた者としては大変嬉しく思います。

ただ一方で、今作がスローガン以上に作品として「新しいもの」や「変化」を打ち出せているかは少々疑問で、音楽面や構成面など作品そのものの内容でもう少し新鮮なものを提示してくれたら良かったかなとも思います。キャストチョイスのカバーなどは面白いですし、近いことをアンケートに書いたりもしていたので嬉しかったのですが、いかんせん聴き面上はなかなか伝わらないので…。もちろん今後もキャストがどんな曲を選んでくるかは非常に楽しみにしています。

一応曲に関してはコロムビア限定の特装版に付いてくる『The Remixes Collection THE IDOLM@STER TO D@NCE TO !! Vol.1』はそれなりにやりたい放題やってるので、攻める準備があることは匂わせてると忖度できないことはないですけど。(ちなみにこのリミックスCDのリーフレットの中には今回リミックスを担当した3人のちょっとしたインタビューも載ってるので未見の方はチェックしてみてください)

とは言え、今後新しいことを始めていくための決意表明として今回の『MASTER ARTIST 4』を置く気持ちも分かりますし、「止まる気はない」というのをキャスト・スタッフ含め度々表明してくれているので、その姿勢は応援しつつ、それらが形になるのを待ちたいと思います。


またこれは完全に余談ですが、中身に関係ない小ネタシリーズとして、ドラマパートで「765プロライブ劇場」の存在、つまりはミリオンライブ!に通じる世界であることが示唆されていました。だからといって、後輩が登場するわけでもないですし、特に深く言及することもないですし、先輩としてどうこうみたいな話になるわけでもないので、そのこと自体がこのシリーズに直接影響を与えるようなことはないのですが、一応触れておきます。

これに関しては『スターリットシーズン(スタマス)』の絡みで整合性を取るために言及したんだろうみたいな話もあって、実際その面も無いわけではないでしょう。ただ「事務所を超えて頑張っていこう!」みたいなスタマスの物語に関与するような話は1ミリも出ていないので、どちらかと言えばそういう「世界線」を意識したものというよりは、「時間軸」を意識したものと考えるのが妥当かと思います。

ここまでのレビューで何度も述べてきたように、今作『MASTER ARTIST 4』は一貫して「これまでの年月を踏まえながらも、新たなスタートを切って未来に向かおう。変わっていこう」というメッセージを発していますが、そこを語るにはある程度アイドルたちが年月を重ねていることを描く必要があります。

単純に「売れてきた」というだけでも年月は表現できますが、環境がいつもの765のままでは「変化」に関してはむしろ「変わらないって最高!」みたいな内向きの方向に向かってしまいますし、急に事務所を引っ越したとか新しい人が入ってきたとか新情報言われても飲み込みづらいでしょう。つまり今回のこれは、年月を重ねたこと、そして「変化」を比較的飲み込みやすい形で表現する記号として「劇場」が用いられたという程度のものなんじゃないでしょうか。あと直近で765に触れられるのが「ミリオンライブ!シアターデイズ」なのでそこからの人も入りやすいというのもあるでしょうし。

確かにミリオンライブ!の世界が中心になってしまうと、いわゆる765ASは「先輩」というくくりの中で物語の中心から外れてしまうという問題がありますが、それは必ずしも「後輩」の存在が765ASの物語を邪魔したりすることは意味しません。それは後輩を出しつつ765の物語を語りきった『THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!』をみれば分かるでしょう。

だいたい世界観なんて新しいゲームやアニメが出るたびに変わってますし、これからも変わっていくでしょう(「765の13人」をやっていくにあたっても、まず中心となるような大きい作品で新たな世界観を提示することが必要だと思います)。それよりも一番重要である765の13人が中心にいるということについて、今作『MASTER ARTIST 4』は疑いようも無いので、この件に関しては正直本当にどうでもいいと思います。余談おわり。



それではこの辺で。

消灯ですよ。