【読書】『三体0 球状閃電』『三体X 観想之宙』(オーディブル版)感想

劉慈欣によるSF小説『三体』3部作を「audible」で聴き終えたので、続けて前日譚的な『三体0 球状閃電』と宝樹による2次創作の「続編」が後に劉慈欣なも認められ公式に出版された『三体X 観想之宙』の2作をやはり「audible」で聴きました。

 

三体0 球状閃電

『球状閃電』は『三体』以前に書かれた作品で、天才物理学者・丁儀が登場するぐらいで物語的な連続性はそれほど無いものの、『三体』とは世界観が緩やかに繋がっています。

 

本作の中心となるのが神出鬼没の球状の雷「球電(ボールライトニング)」。

 

本当に一から十まで球電の話だけで進んでいくのですが、これが無類に面白い。

球電自体は現実に目撃証言もある現象なのですが、流石は劉慈欣、風呂敷の広げ方が尋常ではなく、最後には宇宙の深淵まで連れて行ってくれます。

 

その一方で本作に特徴的なのが、やたら甘酸っぱい恋愛描写。主人公となる雷学者と、球電を兵器として研究する美女軍人のつかず離れずの関係は『三体Ⅱ 黒暗森林』の羅輯妄想パートを思い出しました。

読んでいる間はなんだこれと思っていましたが、ラストのやたらロマンティックな展開に至って、あれは必要なパートだったのだと気付きました。

 

『三体Ⅲ 死神永生』の程心と雲天明の関係などもそうですが、劉慈欣の作品は大きな物語と個人の恋心がリンクしてくる、いわゆる「セカイ系」的なロマンチックさがある気がします(実際劉慈欣は、セカイ系の代表的な作り手である新海誠の『秒速5センチメートル』を好きな作品として挙げています)。

 

ただし劉慈欣の場合は、理論の土台がしっかり固められているため、鼻じらむことなく素直にそのロマンチックさに浸ることができるのです。

 

本作『三体0 球状閃電』は、そんな劉慈欣の魅力が存分に(そして『三体』本編より手軽に)感じられる、とても面白い作品でした。

 

 

三体X 観想之宙

本作は『三体Ⅲ 死神永生』刊行後に宝樹がネットに上げた2次創作。その完成度の高さにファンの間で人気を博し、ついには劉慈欣の公認を経て同じ出版社から出版されるという、まさにシンデレラストーリーな背景を持つ作品です。

 

根本的には「この作品の続きを読みたい!」「明かされていない謎を知りたい!」という、ストレートなオタクの欲求によって書かれた作品ですが、宝樹の確かな知識と筆力によって単なる2次創作の枠を超えた、堂々たるSF作品に仕上がっています。

 

ただ『三体』の考察としてはかなり整合性が取れており納得度も高い一方で、本編にあった宇宙社会の考察やロマンチックさは背後に引っ込んでいて、キリスト教や神話的世界観が前面に出てきているので、空気感は良くも悪くも本編とはだいぶ違うものになっています。

 

本編ファン的には割と好みが分かれそうですが、個人的にはとても感心した一方、本編ほどは刺さらなかったという感じでした。

 

 

ともあれこれで『三体』シリーズは完走したので、次は劉慈欣作品をさらに掘っていくか、物理学系のノンフィクションに行くか迷い中。

 

 

とりあえず今回はこの辺で。

消灯ですよ。