【映画】2019年映画ベスト10

『インフィニティ・ウォー』以来、映画に関しての長文は書いてなかったので、久々に書いてみます。2019年に観た新作映画ベスト10です。


⑩ GRETAグレタ


落し物を届けた先にいた婦人はサイコパスだった!という、それ自体に新しさがあるわけではないプロットなのに、今年一番恐怖を感じてハラハラできた映画。兎にも角にもイザベル・ユペールの演技が凄まじく、最初は温厚だがどこか寂しげな中年女性としか見えないのに、本性を表してからは、何も暴力的な描写はないのに「絶対に逃げられないわ」といった絶望感を感じさせる。細かい構成や伏線も意外と気が利いていて、ジャンル物でもしっかり作り込めばここまで面白くなるという、お手本のような映画。


⑨ 工作 黒金星と呼ばれた男



北朝鮮の核開発を探るため、韓国から送り込まれたスパイの話。いわゆるスパイ映画とは違い、派手なアクションは無く、描かれるのはリアルな諜報合戦だが、これが非常にサスペンスフルで面白い。そして、最終的には潜入先の相手との友情にフォーカスしていくのも、意外性があり何より熱い!現実ではどこもかしこも国家間で敵を作って対立を煽るばかりだが、個人間なら分かり合えることもあるかもというメッセージは、(これが韓国映画というのもあり)本当にそうあってほしいと思う。


⑧ バーニング劇場版



村上春樹の小説を韓国を舞台にしてNHK主導で制作されたドラマの映画版。小説家志望の青年が失踪した幼馴染の女性を追う。様々な謎が提示され、答えらしきものも浮かび上がってはくるのだが、その全てが状況証拠や実感でしかなく、確かなものが全く無い。あれは一体なんだったんだ?と観ている間も、観た後もずっと思考を促される。忘れがたい一本。


ロケットマン



エルトン・ジョンの伝記映画。エルトン・ジョンのめくるめく半生を、彼の楽曲とともにミュージカルとして振り返っていくのだが、物語と歌詞が完全に合致しており演出もスムーズでミュージカルとして非常に良くできている。また映像面の演出も的確で、劇的な色使いや、エルトンの衣装の変化など、画的に楽しいのはもちろん、それらがきっちり登場人物の心情を表現してもいる。音楽と映像の両面で楽しませてくれる、元気が出る一本。


⑥ CLIMAX クライマックス



誰かがLSDを混入させたサングリアをうっかり飲んでしまったダンサー集団の打ち上げパーティの様子を延々と撮った映画。まさに「地獄絵図」の完全映像化なのだが、皆ダンサーだから動きが芸術的であり、またずっとアッパーな音楽が流れてて、どんどん楽しくなってくる。観終わった後はもうぐったりなのだが、またすぐに観たくなってしまう。まさにドラッグ。


ハウスジャックビルト



サイコパスの殺人鬼といえば、映画ではだいたい魅力的なカリスマか、異常な天才として描かれることが多いが、今作の主人公ジャックは同情の余地がない最低最悪のバカとして描かれる。自分が殺しやすい女子供ばかりを狙い、その手口は杜撰で、オリジナリティも無い(しかし映画としてはそれをハッキリと映すので非常にショッキング)。そのくせ自分のことをアーティストだと思い込んでいて、ずっと自分の家を建てようとしたりしているのだが、自分が作りたいものが分からないので一向にに完成しない。悲しいほど才能がない。全く同情の余地の無いはずの最低な人物なのだが、なぜだか自分を重ねて切なくなってしまう。どんなに最低最悪の人物を描いてきても、最後に地獄に落とせばいいっしょ的な軽いノリのラストも好み。


惡の華



押見修造による漫画の実写化。うっかり憧れの子の体操着を盗んでしまった中学男子が、それを見ていた同級生の女子に翻弄されていく青春ドラマ。青春なんてものは基本的に無惨でみっともないということを突きつけたうえで、そこに中指を立てていく痛快さがある。個人的に主人公を翻弄する女子「仲村さん」のありようにはかなり共感してしまった。仲村さん同様、私の「惡の華」も当分胡散霧消することはなさそう。


アベンジャーズ/エンドゲーム



MCUマーベル・シネマティック・ユニバースの(ひとまずの)完結編。MCUがある時代に生きられて本当によかったと思わせてくれる最高の完結編。現代エンターテイメントの到達点。何度観ても「本当によくできてるなあ」と感心することしきり。「I knew it」とキャップの10年越しのあのセリフは間違いなく今年の映画ベストモーメント。本当にありがとう。


② ブラック・クランズマン



黒人初の警察官となった主人公が同僚の白人警官(ユダヤ系)と2人で1人の人物を演じて、白人至上主義団体KKKに潜入する様を描く実話を元にした映画。ストレートに楽しいエンターティメントでレイシストのマヌケさをこれでもかと示しつつただ溜飲を下げて終わらせることもしない(勿論、今現在そこら中で起きていることだから)素晴らしくまっとうな作品だった。その両サイドから力強いパンチを決めてくるようなスタンスに何よりも痺れた。


スパイダーマン :スパイダーバース



異次元からやってきた様々なスパイダーマンが集結し、活躍する様を描く。コミックスの絵がそのまま動いているような、観てるだけでワクワクする映像が冒頭からエンドロールに至るまで絶え間なく超高密度で流れる、まさにアニメーションの極限と言える映像表現。そして、各世界のスパイダーマンをはじめとした多様な映像表現が、多様性の肯定、誰でもヒーローになれるというメッセージと完全に一致している恐ろしいほどの完成度。映像表現、ストーリー、テーマが不可分に結びついた素晴らしいアートである一方、エンターテイメントとしても最高に楽しいという完璧な作品。本当に素晴らしかった。



というわけで私のベスト10は以下の通りでした。

スパイダーマン :スパイダーバース
② ブラック・クランズマン
アベンジャーズ:エンドゲーム
惡の華
⑤ ハウス・ジャック・ビルト
⑥ CLIMAX クライマックス
ロケットマン
⑧ バーニング劇場版
⑨ 工作 黒金星と呼ばれた男
⑩ GRETAグレタ


次点、というか次の5本もほぼベスト10圏内です。今回入れられなかったのも誤差レベル。

『きみと、波にのれたら』
湯浅政明監督の恋愛ドラマ。甘酸っぱさと、普遍的な人間ドラマと、アニメーションの楽しさが詰まった、ストレートに感動できる素晴らしい作品。

『マリッジ・ストーリー』
アダム・ドライバーとスカーレット・ヨハンソンが離婚協議中の夫婦を演じるNetflix作品。何より主演2人の演技が素晴らしく、魅入ってしまう。相手が好きか嫌いかなんてハッキリ決められることなんてないし、結婚したから幸せになるわけでも、離婚したから不幸になるわけでもない。何より大事なのは相手のことを思いやることであるといったことが感じられる、これまた普遍的な人間ドラマ。

『旅のおわり世界の始まり』

黒沢清監督作。ウズベキスタンを訪れた女性レポーターが、異文化に触れ成長していく姿を描く。黒沢清監督作は毎作全カットスリリングで、サスペンフルで、なかなか言語化は難しいが、いつだって何か凄いものを観た感覚を与えてくれる。

女王陛下のお気に入り
やってることは嫉妬と謀略にまみれたドロドロの愛憎劇なのに、中心となる女性達がそれぞれ欲望に忠実で強かなのと、いちいち皮肉の効いた台詞のおかげか、むしろ爽やかな印象さえ感じる。大好きな作品。

『フリーソロ』

命綱無し、その身一つで巨大な岩壁を登る男を追ったドキュメンタリー。常に自然体で、付かず離れず人とも関わりながら、でもやっぱり最後はおよそ人が登れそうもない岩壁に身一つで向かっていく姿は、完全にイかれてるが、同時に強く共感もしてしまうし、憧れる。


以上が私の2019年ベスト映画でした。今年はかなり豊作で、他にも楽しかった作品はいっぱいありますが、キリがないのでこの辺りでやめときます。

来年も楽しい映画がいっぱい観られるといいなあ。


それではこの辺で。


消灯ですよ。