『アイドルマスター スターリットシーズン』のDLC「CATALOG Vol.4 ルミナス・ルーフス編」にて配信された『KAWAII ウォーズ』は、『きゅんっ!ヴァンパイアガール』や『アタシポンコツアンドロイド』でおなじみのササキトモコさんが作詞・作曲(編曲は蓑部雄崇さんと共同)。非常にポップな曲調で甘〜い言葉を囁く砂糖菓子のような楽曲になっています。しかし歌詞をよく読み込んでいくと、その甘さに隠された真っ黒い構造が露わになっていきます。
シカバネ超え 目指す場所は もちろん最前線
出だしこそ軍歌のような物騒な言葉が並びますが、全体としては「目移りはしないで」「あたしたちの愛のベクトルは(きみに向かってく)」「君のわがまま叶えるよ」といった具合に、全ての語尾に♡が見えるような甘い言葉ばかりで構成されています。
Cho Cho Cho Choose Me Now
「あたしを選んで」と繰り返すこのサビは、「出会ってくれて/見つけてくれて/選んでくれてありがとう」といった言葉が主軸となるシンデレラの檄エモ楽曲『always』を連想させます。シンデレラ10thファイナルライブでも大勢の涙を搾り取った楽曲ですが(私は観てないですけど)、なぜこの楽曲がここまで感動的に語られるかといえば、身も蓋もないですが「言ってほしいことを言ってくれる」からでしょう。ここまで応援してくれて、プロデュースしてありがとうと、これまでの自分の歩みをまるっと肯定してくれるのだから、それはもう号泣間違いなしです。
一方の『KAWAII ウォーズ』も、「これから選んで♡」という時勢の前後はあるものの、基本的には1から10まで「言ってほしいことを言ってくれる」歌詞になっていますし、素直に聴けば蕩けること間違いなしです。
Lo Lo Lo Love Me Darlin こういうのきらい?
ただし『KAWAII ウォーズ』が一筋縄で終わらないのは、途中で「こういうのきらい?」とか言ってくるところで、つまりは「こういうこと言ってほしいんでしょ?」と分かった上で言っていることが暗に示唆されているのです。それだけならば単に「あざとい」だけで、それこそ「KAWAII」と言える範囲だと思いますが、問題は歌詞の主人公が「あたしはドール」と何度も繰り返すところです。他にも「プラスチックの胸の鼓動」「プラスチックの頰が染まる」と、自身が「つくりもの」であることを繰り返し強調していて、そこから浮かび上がるのは、言うことをなんでも聞いてくれるのも、甘く愛を囁いてくれるのも、単に「そういう風に作られているから」という事です。
そして何故「そういう風に作られている」かと言えば、「買ってもらうため」以上のものはありません。「ドール」とは「商品」であり、「君」とは「消費者」である我々です。つまりこの曲は、「商品」が「消費者」に「買って♡」とせがむ、資本主義全開のコマーシャルソングと言える構造を持っています(全ての甘い言葉の最後に「だから買って♡」を付けてもいいでしょう)。
この構造は当然アイマスにも当てはまるわけで、キャラクター、シナリオ、ゲーム、楽曲、ライブ、そこに込められたあらゆる工夫は、煎じ詰めれば全て「消費者にお金を出してもらう」為になされています。そんな構造を間接的にとは言え歌ってしまっているこの曲は、ポップな曲調で以外とブラックなことを歌ってきたササキトモコ曲のなかでも、飛び抜けてブラックと言っていいと思います。
『always』との対比でもう少し言うと、「選んでもらえた」人の足元には、選んでもらえなかった無数の「シカバネ」が転がっていることも示唆していて、仮に「選んでもらえた」としても、その先の未来は必ずしも甘くないことが2番で非常にブラックな形で語られます。
過去のお気には箱の中 忘れ去られた
それが未来のあたしでも
結局のところ、「商品」はある程度愛でられ楽しまれた後は、たいてい飽きて忘れ去られるか捨てられます。しかし「商品」は「消費者」に消費されること以外に存在価値は無いので、その未来が分かっていても「消費者」に媚び続けるしかないという「商品」の悲哀を歌っているのが2番の歌詞なのです。この辺りの心情は意思のあるおもちゃを描いたPIXARのアニメ映画『トイ・ストーリー』を連想させます(特に「3」まで。「4」ではおもちゃたちが自由意志を獲得するさまが描かれます)。
ここで考えるのは、この2番の歌詞を聴くに当たって、ただの「商品」と分かっていても、感情移入して「かわいそう」と思ってしまうところです。「かわいい」にしても同じですが、そうした「商品」と「消費者」を超えて感情移入してしまう魅力というのもまた確かにあるわけです。その魅力こそがこの楽曲における「KAWAII」であり、無数の「KAWAII」がしのぎを削っている現代を表したのが『KAWAII ウォーズ』なのです。そしてそんな理性と情緒を揺さぶってくるこの曲は次のように締められます。
とあるドールのつぶやきでした
「とあるドール」はどこにでもいるはずです。そう、あなたの押入れの中にも......。
それではこの辺で。
消灯ですよ。