【読書感想】『コンヴァージェンス・カルチャー: ファンとメディアがつくる参加型文化』

コンヴァージェンス・カルチャー: ファンとメディアがつくる参加型文化

著:ヘンリー・ジェンキンズ  訳:渡部宏樹 北村紗衣 阿部康人

 

本書における「コンヴァージェンス」は以下のように定義される。

①多数のメディア・プラットフォームにわたってコンテンツが流通すること

②多数のメディア業界が協力すること

③オーディエンスが自分のエンターテインメント体験を求めてほとんどどこにでも渡り歩くこと

本書はこのコンヴァージェンスという概念を中心に、コンテンツの送り手と受け手という単純な構造を超えて、相互に絡み合いながら多様な文化や潮流が生まれていくさまが語られていく。取り上げられるタイトルは、アメリカのTV番組から『サバイバー』『アメリカン・アイドル』、映画から『マトリックス』『スター・ウォーズ』、小説から『ハリー・ポッター』となっている。

もとは2006年に出版された本が2021年にようやく邦訳されたもので(邦訳の元になったのは2008年に出たペーパーバック版)、SNS全盛の現在から見るとやや古い内容にも思われるかもしれないが、本質としては完全に現在にも通じるものであり、いまの文化と共通するところも多数見つけられるだろう。また、異国のファンコミュニティについて知れるという点も面白く、国は違えどそのあり方はさして変わらないというのがよく分かる。

ファンだけでなく企業側の思惑が並列して語られるのも興味深い。ここで挙げられる多数の失敗例や成功例は、現在でも見覚えのある事例が多く、ファン・企業双方にとって大いに参考になるだろう。企業がファン文化をコントロールしようとして、あえなく失敗しているところなどは特に。

終盤には応用編として、政治分野におけるコンヴァージェンス文化について語られる。ここでは分断の可能性など多少は示唆されるものの、基本的にはコンヴァージェンス文化やポップカルチャーが政治に与えるポジティブな期待が主に語られる。ネット上では分断と先鋭化が極まり、現実では戦争まで起きてしまっている現在から見ると、楽観的すぎるというのは否めない。ただ差別や陰謀論など、ことごとく悪い方向に向かってしまっているとはいえ、コンヴァージェンス文化のパワーが強く働いていること自体は見て取れるわけで、それが良い方向に働く可能性があるのもまた事実とも言えるだろう。このエネルギーを良い方向に向けるためにも、コンヴァージェンスについて考えることは、より重要になっているのかもしれない。


 

というわけで、なんでこの本を手にとったかといえば、概要を聞いて「それ完全に『アイドルマスター』のことじゃん」と思ったからです。ファンと企業の相互作用を語る上で、アイマスはかなり面白い題材だと思うので、その辺り気が向いた時にまとめてみたいです。気が向いた時に。

 

 

それではこの辺で。

消灯ですよ。