『朝焼けは黄金色』本編+新曲感想(ネタバレあり)

765プロが出来る以前、高木社長、黒井社長、そして小鳥さんの過去を描いた漫画『朝焼けは黄金色』の最終巻が発売されたということで、この機会にまとめて一気読みしました。

これまで事あるごとに匂わせがあった765プロの過去がついに描かれるということで、はじめは期待半分不安半分といった感じでした。こういうスピンオフ的に間を埋めるような物語は、下手したら興醒めになる危険もありますし、アイマスは基本パラレルでやっているので、どのような位置付けにするかも難しかったと思います。

結論から言えば、今作『朝焼けは黄金色』は非常にバランスの取れた、過去の小鳥さん曲なんかも遡って深みが増す、これ以上はなかなか考えられない良いスピンオフになっていたと思います。あくまで2011年のアニメ『アイドルマスター』の前日譚と位置付けることによって、S順一郎現会長の扱いなど整合性の問題をうまく回避していましたし、吉澤記者やバーの存在など、馴染みの要素でスムースに物語に入ることができました。また、あくまで「アニメの前日譚」とすることで想像の余地をまだ残してくれていて、これまでの解釈を否定せず、今後もこの物語に縛られず新たな展開もできる、良い落とし所だったと思います。

 

本編感想

本作は若き日の(というほど若くはないですが)高木順二郎と音無小鳥が出会うところから物語が始まります。この時間軸をメインに、回想で小鳥の母「琴美」の過去が徐々に明らかになっていきます。

時代感としては、小鳥さんがメインのパートは「アイドル冬の時代」と直接言及されていたり、小鳥さんがMDで音楽を聴いていたり、黒井が「モーニング娘。」を排出した「ASAYAN」的な企画を出していたり、90年代中ごろが明確なモデルでしょう。となると琴美さんや日高舞が活躍していたのは当然70年から80年にかけてと考えられます。これはアイマスがもともと「モーニング娘。」はじめハロプロの影響を受けていることを考えると、その前夜として非常に腑に落ちる時代設定です。

現代へのつながりで言えば、876プロの石川社長と思しき人が出てきたり、アイマス2に登場したランキング番組「どっとっぷTV」がやっていたり、幼い頃の詩歌が出てきたりと、イースターエッグとしても楽しいところがたくさんありました。

キャラクターとしては、初の顔出しとなった高木と黒井もイメージ通りで(そもそもアニメの時点で目元以外ほとんど見えてましたが)、特に黒井が高木のことを大好きすぎるのが面白かったです。琴美さん失踪の直接の原因となった黒井の言葉も、パフォーマンスの質がどうこう言ってましたが、高木が入れ込んでいる琴美さんへの嫉妬なのは明らかですし。

黒井に関しては、担当する「ブラックニードル」が軌道に乗ったところで退職するところなど、アイマス元総合ディレクター石原氏が参照されているのかなと思いましたし、そうなれば高木は坂上氏となるのかとか、そういう読み解きも面白いと思います。

小鳥さんと琴美さんに関して、まず小鳥さんは今に繋がる歴史が分かって、より深みが感じられるようになりました。そして琴美さんは、ビジュアル含め小鳥さんと近いところはありつつ、ところどころ春香を意識したようなキャラクター造形になっていて、後の765プロに繋がる源流を感じられました。今回の新曲もそうですが、今作を経て今後ライブで小鳥さんの歌が聴けたら何を聴いても泣いちゃいそう。

お話としては、親の無念を子で晴らすような、下手したら感じ悪い話にもなりかねないのですが、もちろんそこにも自覚的で「音無小鳥」としてステージに立つ意味というのもちゃんと問うていて、読んでる間はほとんど気にならなかったです(やはり構造的な危うさは多少残っていたとは思いますが)。

 

新曲感想


 

最終5巻特装版CDに小鳥さんの新曲『翼』と『思い出は永遠に』が収録されました。これが読んだ後に聴くとまあ感動的で、最高のED曲となっていました。

『翼』はこれまで『ID:[OL]』『空』『花』『光』『幸』『♪(おんぷ)』など、小鳥さんソロの大半を担当したyuraさんが作詞。作曲は『空』の神前暁さん。曲としては今作の物語を踏まえた上で、まさに『空』に繋がっていくような、まさに大円団な楽曲になっていました。

『想い出は永遠に』は作詞・森由里子先生、作編曲高田龍一さんと、共に初期からアイマス に関わっているコンビでの制作。本作はアニマスの前日譚ということで、劇版を担当した高田さんが起用されるのも納得です。曲としては、『翼』のサビなんかにも感じられたのですが、この曲は全編琴美さんが活躍したであろう7、80年代のアイドルポップスが全力で再現されていて最高でした。

2曲ともベースの千ヶ崎さんやドラムの山本真央樹さん(『想い出は永遠に』のみ)をはじめ、弦がいっぱい入ってたり、力の入ったゴージャスな作りになっていて嬉しい限り。前段でも書きましたが、どちらもライブで聴いたら本当にヤバい、というか想像しただけで泣きそうになる。

 

というわけで、本作『朝焼けは黄金色』は新曲含めとっても良かったです。音楽が重要な位置を占めている物語なので、尺的にも劇場アニメとして観れたら最高だなとは思いますが、位置付けがどうにも難しいか。ライブなら本作を意識した展開もできそうなので、是非ともお願いしたい。もはや口に出すのもなあみたいな気持ちになってしまっているほど音沙汰の無い765単独ライブを観たい理由がまた増えてしまった……。

 

 

それではこの辺で。

消灯ですよ。