【アイマス歌詞話】AJURIKAさんと『Near to You』

※この記事は2019年10月15日にニコニコブロマガに投稿した記事「【歌詞話】AJURIKAさんと『Near to You』  」をベースに加筆・修正を加えたものになります。

 

アイマス曲の作詞家さんについてと、その方の歌詞を1つ選んで書くやつです。

今回はAJURIKA/遠山明孝さんです。


AJURIKA/遠山明孝さんについて

主な作詞楽曲
『Next Life』
『Naked Romance』
『Nation Blue』
『Near to You』
『Trancing Pulse』など

AJURIKAさんは元BNSI現フリーのサウンドクリエイターで、アイマスにおいてはソリッドなサウンドの「N」で始まるタイトルの楽曲群で親しまれています。

歌詞については、タイトルの「N」が先行して話題になることが多いと思います。ただその歌詞もサウンド同様、明確な作家性を感じさせるものになっており、特に「距離」の描き方にそれを見ることができます。


その「距離」というのも大きく3種類に分けられて、まず1つ目は「時間的な距離」

AJURIKAさんの歌詞には、バンナム出身の渡辺量さんやTaku Inoueさん同様「時間」というモチーフが頻繁に登場します。中でも「過去」が描かれることが多く、ほとんどの曲がその「過去」の思い出を胸に「未来」へと向かうという、時間的な距離を感じさせる構成になっています。

あの日見た夢を 追って 全力で走ってきた
そんな想いずっと輝いて
『Nation Blue』
今 この瞬間を 全力で生きて後悔しない
あの日の自分見つめて前を向くだけ
『Nostalgia』


そしてその「時間」というモチーフを極限まで突き詰めたのが、AJURIKAさん(当時は遠山明孝名義)初のアイマス参加楽曲である『Next Life』です。

離れてゆく螺旋の記憶が 時を越えてまた二人巡り逢わせるまで
憶えていたい二人いるだけで それが全て 満たされた幸せな日々を

なにせタイトルからして「Next Life(来世)」ですから、非常にスパンが長い!この曲は共依存を思わせる関係性を二重螺旋に例えたり、全体の内容としては「来世で会いましょう」といった様相だったり、AJURIKAさんの嗜好を全開にした楽曲ゆえか、その後の楽曲の歌詞に比べてダークなものになっています。(ちなみにこの曲を歌う我那覇響のCVである沼倉愛美さん個人名義の楽曲『Spiral Flow』もAJURIKAさん制作で、『Next Life』と呼応するような歌詞になっているので、チェックしてみるのもいいかも)


2つ目は『物理的な距離』

AJURIKAさんの歌詞は、情景描写が丁寧になされることも多く、その中にも距離を感じさせる描写を見つけることができます。

教室の窓側 グラウンドに視線投げる
髪を風になびかせて ボール追ってる
『Naked Romance』
雨が降る景色 そこに水色の傘見つけ
キミの事が そう 気になっているんだ
『Nation Blue』

これら具体的な描写以外にも「空」というモチーフだったり、遠くにいる相手を想う描写なども多く、同様に「物理的な距離」を感じさせます。


そして最後が心理的な距離」

それは“憧れ”だったり“目標”だったり“理想”だったり、あるいは単純に“意中の人”だったりしますが、いずれにしても「遠くにあると感じられる、大切なもの」に対してまっすぐ進んで行くというイメージは、AJURIKAさんの歌詞全てに共通していると思います。

「時間的距離」も「物理的距離」も、結局はここに収斂していきます。

どこまでも弱かった自分に 別れを告げたあの日から
迷わずまっすぐ進んでる 大きなあのYggdrasilまで
『Nostalgia』
鮮やかな色纏う波紋は 風受けて飛び立った
キラキラとひかる 眩しい空へと
『Trancing Pulse』
触れること出来ない 距離を越えて 届けたい
歌うよ 想いのせて
『Nothing but You』

こういったイメージは特に走ったり手を伸ばしたりする描写を伴うため、疾走感のある楽曲と大変マッチして、聴いていて非常に気持ちがいいですし、カラオケなんかで歌うときも超気持ち良く歌えます。

そんな感じでAJURIKAさんの楽曲は、サウンド面や「N」ではじまるタイトルのみならず、歌詞の内容を含めた全ての要素が合致して、魅力的な独自の世界観を作り出しているのです。


Near to You
作詞・作曲・編曲:AJURIKA


個人的にこのパッションverが一番好き

『Near to You』は「CINDERELLA MASTER jewelries!シリーズの第3弾における共通曲。愛称は「そばつゆ」。(Near=側 to You)

この曲はAJURIKAさんが制作してきた楽曲の中でも珍しい、ストレートにポップな1曲で、歌詞も同様にポップさが前面に出たものになっています。しかしその一方で先に挙げた特徴が網羅された、まぎれもないAJURIKAさんの歌詞になっているというのが、この曲の歌詞の1番の魅力だと思います。

早速歌詞の中身に入っていきますが、出だしから超ポップ。

空に舞うシャボン玉
陽射しに輝く街路樹も
そう全て今その時を
その瞬間を感じて

キラキラしたモチーフが並んでいますが、その全てが「空」を意識させるものとなっています。この流れは次の一節にも続きます。

虹色のこの夢は
とても熱く熱く輝いて
前だけただ照らしてる
Don’t look back!振り返らずに

前段の「空」に通じるモチーフは、ここの「虹色のこの夢」というあたりから、まさしく「夢」のイメージであり、先述の「遠くにあると感じられる、大切なもの」として考えることができます。

その一方で「前だけただ照らしてる」と、「空」を中心に上(縦)に向いていた意識を前(横)の方にシフトしていきます。

そして前を向いた先にに何があるのかというのがサビで明らかになります。

いつもキミ目指し走りだす
大好きだから
どこまで近づけるかな

前で待っているのは「キミ」、そしてアイドルソングで「キミ」が何を意味するかといえば、それは当然「ファン」ということになります。

これらが何を意味するかは、1番と2番、サビ前の1節を並べると分かりやすいでしょう。

今も感じる胸を押し出す
鼓動は速く 前に前に
どこまでも行くよ
大きな夢に 飛び立つ気持ち
風受けて舞う 遥か遠く
どこまでも高く

「キミ」に向かって「前に前に」、「夢」に向かって「どこまでも高く」。

これはつまり、「大きな夢」を持ち「ファン」へ向かって歌うという「アイドル」そのものの有り様に、AJURIKAさんの歌詞世界における「距離」の感覚をそれぞれの要素に対応させ、完全なアイドルソングに昇華させてみせた歌詞になっているのです。

また、他の楽曲では前に進むための原動力が過去にある場合が多いのですが、この曲ではそれを上(空)に持ってきており、また先述の「時間的な距離」も専ら未来に向かっており、よりポップさが際立つようになっています。

溢れだすこの想い
きっといつの日か叶えたい
未来はまだ遠いけど
Never give up!諦めないよ


このように作家性とアイドルソングという枠が完全に一致した『Near to You』の歌詞は、AJURIKAさんの歌詞の一つの集大成になっていると言えるでしょう。


それでは、今回はこの辺で。


消灯ですよ。