【アイマス歌詞話】松井洋平さんと『Raise the FLAG』

※この記事は2018年7月19日にニコニコブロマガに投稿した記事「【歌詞話】松井洋平さんと『Raise the FLAG』  」をベースに加筆・修正を加えたものになります。

 

アイマスに関わりの深い作詞家さんの歌詞の特徴と、その方の歌詞を1つ取り上げてじっくり味わっていくコーナー。今回は松井洋平さんと『Raise the FLAG』です。



松井洋平さんについて

主な作詞楽曲
『Precious Grain』

『STANDING ALIVE』

『STARLIGHT CELEBRATE!』

『Reason!!』

『Multicolored Sky』他多数

松井洋平さんは音楽ユニット「TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND」として活動する傍ら、作詞家としてアニメ関連楽曲を中心に多くの歌詞を提供しています。その歌詞の数は数え切れないほどです。今回は基本的に作詞家としての松井さんについて、そして主に「ミリオンライブ!」の楽曲に絞って書きたいと思います(私がsideMもシャイニーカラーズもカバーできてないので)。


松井さんは「ミリオンライブ!」には最初期から歌詞を提供しており、「THE IDOLM@STER LIVE THE@TER PERFORMANCE 02」の『Precious Grain』から始まり、現在に至るまで「ミリオンライブ!」楽曲役300曲中、およそ5分の1を占める60曲ほどを作詞しており、まず「ミリオンライブ!」の看板作詞家と言って差し支えないでしょう(2021年9月時点でのかなりざっくり集計です。だいたいあってるとは思いますが、細かな数字は信用しないでください)。一方でSideMにおける『Reason!!』やシャイニーカラーズにおける『Multicolored Sky』のような、いわゆる全体曲はミリオンにおいて作詞していないのが面白いところ。どちらかといえば『Thank You!』『Brand New Theater!』とコンテンツの核となる場面ではモモキエイジ(八城雄太)氏が作詞を担当しており、「765」の流れに対する意識を強く感じさせるバランスになっています。松井さんはSideMでもかなりの数を作詞していますし、現状アイマスにおける旧ランティス・現バンダイナムコアーツ展開全体の看板的な存在となっていますが、それもミリオンでの活躍が認められてのことと言っていいでしょう。


もちろん作品数が多い=異常な速筆(作詞にかける時間は最長でも2日程度だそう)のために重宝されているというのもあるでしょうが、当然内容的にも非常に高く評価されており、特に作品やキャラクターの理解度が非常に高い。その信頼度の高さから、一部では「松井洋平神」と崇められているほどです。


そんな松井さんの書く歌詞の幅は異常に広く、なかなか「作家性」のようなものを掴むのは難しいのですが、一言で表すとすれば「構成力」でしょうか。作品やキャラクターにまつわるモチーフを大量にちりばめながら、それらをつなげて一つのストーリーにまとめ上げる力が群を抜いています。内容はもちろん、口調、モチーフに至るまで、引き出しが非常に多く、バラエティに富んだ歌詞を書ける=どんな世界観・キャラクターにも対応できるのも強い。

 

キャラソンの歌詞としてこれ以上大切なことはないですし、キャラクターや世界観自体が特に重要視される現在の二次元コンテンツ界隈において、これほど心強い人はいません。実際そこらじゅうで松井さんの歌詞を目にするのも、多分そういうことでしょう。

というわけで、ここからは実際の歌詞に触れながら、具体的に松井さんの歌詞の特徴について見ていきます。

前述の通り、松井さんの歌詞はめちゃくちゃ多様なのですが、その中でも共通して言えるのは、情景より感情の描写が占める割合が非常に高いということです。

松井さんの歌詞は基本的に「歌い手(キャラクター)が自分の言葉で感情を語る」という形が多いので(特にロコやまつりなど口調に特徴があるキャラであれば、それだけでオリジナリティ溢れる歌詞になる)、具体的な場面や状況の描写よりは、自然と「嬉しい」「楽しい」「〜したい!(しよう!)」のような感情の描写が中心になっていきます。また何らかの情景が描かれても、主役はあくまでその状況で感じる歌い手の感情です。関連したモチーフを散りばめる作風も含めて、具体的な描写よりはイメージを伝える歌詞になっています。

例えば真壁瑞希『POKER POKER』に次のような一節があります。

二つのポーカーフェイス並んだ!
隣同士のカードでどんな役ができますか?
ハートのフルハウスだったらきっと
ウイニングハンドですね、
どっちが勝ったのかは
わからないんですけれど、嬉しいな

この曲の歌詞は、席替えで揺れる感情をポーカーに例えて歌ったものなのですが、そのラスト「気になる子と隣になった!」という場面で、どう席が発表されているのかとか、2人の具体的な様子は描写はせず、結局は主人公の「嬉しいな」という感情描写に集約されています。ポーカーにまつわるカタカナ語を大量に並べることで、具体的に描写をしているようで逆に抽象化しています。専門用語や固有名詞を並べて、イメージだけ伝えつつ、かえって聞き流しやすくするテクニック(パッと聞きだとよく分からないけど言いたいことは伝わる感じ)は多くの作詞曲で見られます。


こういった主観的で感情描写が中心の歌詞は、それ自体が直接キャラクター描写になるので「キャラソン」に非常に適してはいるのですが、ともすれば似通った、ぼんやりしたものにもなりかねません。しかしそこが松井さんの上手いところで、先述の『POKER POKER』における「席替えとポーカー」のように、多彩なモチーフ使いによって多くのバリエーションを生み出しています。当然そのモチーフもキャラクターと密接にリンクしており、「砂時計(時間がない)」(『Precious Grain』)、「口紅(素直になれない)」(『ライアールージュ』)、「はじめてのおつかい」(『グッデイ・サンシャイン!』)、「蝶々」(『ハッピ〜 エフェクト!』)などなど(あっ最後は中の人か)、その解釈含め、その引き出しの多さはやはり「キャラクターを描くこと」においてかなりの強さを発揮しています。

また松井さんは、特徴的な言葉遣いで通してキャラクターを表現することも得意としており、主にロコ・まつり・ありさや、表現する対象がキャラクターよりも世界観が主となることが多いユニット曲でよく見られます。

コンセンサス、ウェイティングばっかデフォになっちゃうんだ結局
アジェンダとかフィックスしちゃうとサプライズなくなるよ
『STEREOPHONIC ISOTONIC』
シータクロイヒーザギンでベールタシースー
当たり前に奪っている…
みんなの想いをつまんでる
ねぇ、見切れてるよ?
悪だくんでいるんでしょ?
その企画ダメ出して お蔵入りにしちゃうよ!
『ZETTAI × BREAK!! トゥインクルリズム』

前段で少し触れましたが、固有名詞を散りばめたり、特定の言葉遣いで通す手法や、感情描写が中心の内容から、正直字面だけで見たらよく分からないものも多いでしょう。しかし、ただの言葉の羅列というわけでもなく、あくまで筋の通った歌詞世界が形成されていて、無数の小ネタもあればダブル・トリプルミーニングがあったり、かなり考えて作られています。こういった情報を詰め込んでかえって抽象化させる手法は、具体的なものではない「キャラクター(世界観)」をむしろ直接的に表現しているとも言えるかもしれません。また逆に、主題のメッセージ性が強まるほどこの抽象化が抑えらる傾向もある気がします。


このように、なんかよく分からないがロコっぽい『STEREOPHONIC ISOTONIC』や、なんかよく分からないがギョーカイジンっぽい『ZETTAI × BREAK!! トゥインクルリズム』など、「なんかよく分からないが〇〇っぽい(しかしちゃんと考えられている)」という感じを安心して楽しめるのは、キャラクターや世界観の捉え方が的確だったり、内容に一貫性があるのはもちろん、「音として楽しい」という面もあるでしょう。

飛び込んじゃう、だってねノーメイク!
熱帯魚といっしょにスイミング
SPLASHのラッシュで HAPPY TIME
楽しい!楽しすぎる
ヴァカンス!ヴァカンス!!ヴァカンス!!!
『Bonnes! Bonnes!! Vacances!!!』

語尾の音を合わせて軽く韻も踏みつつ、続く「SPLASHのラッシュで HAPPY TIME」でリズムは踏襲しつつ「あ」の頭韻で畳み掛けてリズムを作っています。


厳密に韻を踏んでいくというわけではないですが、このように要所要所で言葉がリズミカルに配置されているので、専門用語や固有名詞を大量に並べた、ぱっと見意味のわからない歌詞でもするっと聴けてしまうのです。

 

松井さんの歌詞は1曲1曲の情報量が半端ないので、個々の文を読み解くことも無限にできるのですが、まず曲として聴いた時に感覚としてキャラクターや世界観を理解できるというのが一番強いところなんじゃないかと思います。

 


『Raise the FLAG』



「感覚的に云々」みたいなまとめ方をしておいて難ですが、これから紹介する『Raise the FLAG』は、松井さんの歌詞の中でも例外的に「言葉そのものの強さ」が前面に出た一曲です。松井さんは最近『Only One Second』『SING MY SONG』など、ストレートな歌詞も書かれるようになってきましたが、その走りとも言えるでしょう。

とりわけ『Raise the FLAG』は、終始強い語調で聴き手を煽り続け、松井さんの歌詞では珍しく、明らかにキャラクターや世界観よりもメッセージが主軸となっています。これは「鎖」や「旗」といったモチーフを並べるだけで終わらず、内容としても「革命」的な世界観を表現しようとした結果なのかもしれませんが、とはいえ結果として、松井さんの歌詞群の中でもかなり特異な歌詞になっているのは間違いないと思います。

前置きはこのくらいにして、実際の歌詞の内容に入っていきます。まずは導入。

積み重なったルールを大事に抱え込み
鎖に縛られ動けなくなってる
決めたのは誰かと考えることさえも
奪われている現実に気付く時が来たんじゃない?

出だしからキャラクター性などは全く感じられず、メッセージだけで構成されているような歌詞です。全くその通りだなあと思う正論です。


それから次のように続きます。

(Raise Up!)自分って存在の
(Raise Up!)価値を委ねるような
生き方に慣れきったら終わってしまう

これも全くその通りで、こうして終わってしまった人もよく見ます。

抗いを否定する固定観念って妄想に
革新って旗を翳してみせよう
先例も常識も過去の遺物だろう
新しい時代掲げろ!

続くサビでは「常識を捨てされ!」という、これまた全くその通りだなあというメッセージが力強く歌われます。ここまで「全くその通りだなあ」としか言っていませんが、このような聴き手を扇動するような曲(アジテート・ソングと呼ばれたりもします)では、そこが一番大事で、全く共感できない内容であれば「誰かが何か言ってらあ」と、逆に冷めてしまうでしょう。言葉選びも松井さんの歌詞の中では群を抜いて分かりやすく、この曲のように分かりやすさが求められる場では、しっかり分かりやすくできるところを見せてくれます。

ところでこの「常識を捨てされ!」的なテーマですが、この曲で急に出てきたわけではなく、実は松井さんの他の歌詞にも通じるところが幾つか見られます。

昔の人はえらかったってね みんな言うけど
…実際どうだったんだろぉね?
スマホでメールも打てないのに、
どうやって恋心送ってたの?「謎だぁ!」
『タイムマシンに飛び乗って!』
自分だけ特別って、そんなワケはないの♪
みんなきっと素敵だってワタシわかっていますよ!
あんまり睡眠とってないって自慢するより
しっかり安眠する余裕がかっこいいんじゃない?
『Heart・デイズ・Night☆』
いつか聞いた(だれか言ってた)
そうじゃない!そうじゃない!勝つため頑張ってる!
みんなWINNERになりたいの!
『ランニング・ハイッ』

これらは楽曲のテーマというよりも、「常識」と対比させることによって、キャラクターの特徴を強調する一種の手法ですが、そこから前向きなメッセージに着地して行くのも含めて、松井さんの歌詞では度々見られる構成で、これも作家性の一つと言ってもいいかもしれません。

 

要するにこの『Raise the FLAG』は、ただの付け焼き刃的メッセージではなく、しっかり我々聴き手を納得させ、否応なく煽られてしまうパワーを持った歌詞になっています。また、歌う「サジタリアス」所恵美 · 舞浜歩 · 真壁瑞希の曲や歌詞のパワーに負けないボーカルも、この曲を成立させた大きな要因であることは間違いないでしょう。

 

そしてそのメッセージの普遍性から、「THE IDOLM@STER 765 MILLIONSTARS HOTCHPOTCH FESTIV@L!!」1日目で765ASが歌うことで新たな文脈を獲得し、ライブの白眉ともなったりしました。(ただその後ライブで連発されすぎて、少々食傷気味になっている感もあるので『ジャングル☆パーティ』と一緒に一旦寝かせたほうが曲のためにもいいんじゃないかと思ったりもします)

 

 

それではこの辺で。

 

消灯ですよ。