【アイマス歌詞話】MCTC(Taku Inoue)さんと『Pon De Beach』

※この記事は2020年9月2日にニコニコブロマガに投稿した記事「【歌詞話】MCTC(Taku Inoue)さんと『Pon De Beach』」をベースに加筆・修正を加えたものになります。

 

アイマス曲の作詞家さんについてと、その方の歌詞を1つ選んで書くやつです。

今回はMCTC(Taku Inoue)さんです。


MCTCさんについて

主な作詞楽曲
Honey Heartbeat』
『Pon De Beach』
Hotel Moonside』
『クレイジークレイジー

ダンス・ダンス・ダンス


Taku Inoueさんは、元バンダイナムコ所属、現トイズファクトリー所属のコンポーザー/DJで、MCTCは作詞の際に用いる別名義です。

アイマスでは『Honey Heartbeat』で初めて作詞を担当し、同じく作詞のみの『アップルパイ・プリンセス』を経て、『Romantic Now』から作曲まで含め担当。それ以降、ダンスミュージックを基調とした高クオリティの作品を連発し、プロデューサー(ファン)から圧倒的な支持を得ています。

主にサウンド面が取り上げられることの多いTaku Inoueさんですが、今回は作詞家MCTCとしての面を取り上げていこうと思います。


・MCTCさんと韻

まずは何と言ってもアイマスで初めて作詞を担当した『Honey Heartbeat』。アイマスで初めてラップを大々的にフィーチャーした曲であり、そのラップ自体も非常に本格的な仕上がりでした。

どのあたりが本格的かといえば、何よりもまず韻の踏み方。(「親の仇のように韻踏んでますね」とは本人談)

はじめにざっくり韻についても説明しながら歌詞を引用していきますが、まず2番冒頭。

酸欠車内
そう満月のせいじゃない?
海にきらめくハイビーム
まるでガラスハイヒール

「韻を踏む(押韻)」ということにも色々定義はありますが、ラップにおいては主に同じ母音の言葉を一定間隔で配置することを指し、韻を踏むことによってリズムやグルーブを生み出したり、言葉を強調したりします。

ここでは「車内」と「じゃない?」(ああい)、「ハイビーム」と「ハイヒール」(あいいーう)と韻を踏んでいるのが子音もほぼ揃っているので分かりやすいですが、「酸欠」と「満月」(あんえう)でも踏んでいます。

そして「車内」「じゃない?」、「ハイビーム」「ハイヒール」と小節の最後で韻を踏んでいくのは「脚韻」と呼ばれ、ラップにおけるオーソドックスな韻の踏み方になります。

さらにラップではより長い言葉で韻を踏んだほうがすごいという文化もあって、少なくとも3文字以上で踏むのが基本ですが(現在はそこまで韻を重視しないラップも多いですが)、その点についてもしっかり抑えているのが引用部からもわかると思います。

まず韻の説明をするために分かりやすい箇所を挙げましたが、韻がより凄いのが1番冒頭。

ゲーセンデースター
「ねーねー」会話はon and on
決戦!(ドーン)おにの2000
難易度☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

ぱっと見先に説明した分かりやすい脚韻は無いように見えます。しかし、代わりに小節の頭で「ゲーセン」「ねーねー」「決戦!」と「えーえん」(撥音「ん」促音「っ」長音符「ー」は響きが近いため置き換え可能)で韻を踏んでおり、このように小節や言葉の頭で韻を踏むのは「脚韻」に対し「頭韻」と呼ばれます。

日本語ラップにおいてもそこまで注目されることの少ない頭韻ですが、MCTCさんの歌詞においては非ラップものにおいても度々登場し、その点はMCTCさんの歌詞の特徴とも言えますし、その他のラップ風の歌詞(それはそれで別の味わいがありますが)とも一線を画す点でもあります。

歌詞の説明に戻りますが、冒頭から「ゲーセン」と「デート」で頭韻は踏みつつ、次の「ねーねー」からの「on and on(おんでぃのー)」とくるので「ああ、頭韻で固めるんだな」と思わされます(「スタート」で踏んでないので)。しかし、続く「決戦!」でさらに頭韻を重ねてから「おにの2000(にせん)」と続くことで前段の「on and on 決戦!」までが1文字外しつつも韻として回収され(「おにのに」までで踏んではいる)、最後の「難易度☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆(てんすたー)」で直前の「せん」+最初の「スタート」までも韻として回収されていきます。さらに「難易度☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆」は直後に「歓喜のフェスタ」で踏まれるので、結果、韻に関係ない言葉がかなり少なく、非常にテクニカルに韻を踏んだ一節になっています。

さらに「おにの2000」「難易度☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆」という単語は作曲のLindaAI-CUE氏が「太鼓の達人」で「2000シリーズ」を製作していて、その高い難易度のゲーム中の表記(☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆)への目配せです。こういった自己言及的だったりメタ的な言葉選びは、ただのラップ以上にヒップホップを感じさせるところでもありますし、MCTCさんの他の歌詞においても度々感じられる点でもあります。


さらに韻に関して言えば、ご自身でも度々言及されていて、実際極まっているのが『Romantic Now』。

廊下の女子会 放課後の誓い
占った未来 寝ぐせの向き次第!?

やはり「廊下の女子会」と「放課後の誓い」は8文字の長文ながら「おうあおおいあい」で母音が完全に一致しており音としても無理が無いですし、言葉のイメージも合っていますし、続く「占った未来 寝ぐせの向き次第!?」まで含めて文章として成立しているという間違いない名ラインです。


最近ではここまで韻を重視することもないですが、語尾を揃えて脚韻を踏んだり、頭韻を重ねてリズムを強調したりと、変わらず韻を意識した歌詞になっています。

2019年発表『ミラーボール・ラブ』のサビでもこのように

あぁ
わたし回 きみは
ミラーボー
の世
緒のアイズ・オン・ユー
してる

序盤「ミラーボール」まで語尾を「る」で通しながら「踊る」と「ボール」でも踏みつつ(脚韻)「ラブ」で落とし、前段の「あ・あ・あ(歌詞の「あぁ」に当たる部分)」と重ねて「逆さ(あああ)」と歌唱し、一瞬おいて「まの世界で」と「ま」にアクセントを置いて歌唱。続く「内緒の」「アイズ・オン・ユー」「愛してる」と「あ」の頭韻で通していて(後半3つは頭で「あい」まで踏んでいる)、変わらず韻を意識した歌詞になっているのが分かります。


・MCTCさんの歌詞の中身

ここまでは韻を中心に話してきましたが、次は歌詞の内容について。

MCTCさんの歌詞で多くの人がイメージするのが「夜」でしょう。ご自身でも歌詞について「今夜がち」などとつぶやいていて、実際「今夜」というワードが出る曲は類語(「この夜」「今宵」等)も含めるとアイマスだけで16曲中9曲もあります(ちなみにタイトルにまでなっている『だから今夜きみと』では歌詞の中で「今夜」というワードが17回登場。次点は『Hotel Moonside』の11回)。他にもご自身で「旅に出がち」「何かを探しがち」とつぶやいているほか、「宇宙」にまつわるワードや「手」の描写、「君」という存在も頻出したりと、多くの歌詞で共通するイメージが見られます。

また、同様に多くの歌詞で見受けられるのが「時間経過」を表す描写です。

空はサニー&シャイニー
(中略)
空はまさにスターリー
Honey Heartbeat』
十時 目覚ましが鳴る
(中略)
冷や汗オン マイ ウェイ お昼の鐘 鳴り響く
『アップルパイ・プリンセス』
飲みかけのぬるいコーヒー/映画はまだ続いてる
(中略)
寂しげに冷え切ったコーヒーを飲み干した/映画なら終わったよ
『クレイジークレイジー


先述の頻出ワード、そして時間経過を表す描写、これらを総合して考えると浮かび上がってくるモチーフがあります。

「音楽」

まず音楽というものは、時間に根ざした表現と言われます。始まりがあって、途中様々な展開があり、一定時間を経たのちに、終わる。時間が止まっても美術品は存在できますが、音楽は存在できません。つまり「時間」というモチーフは本質的に音楽と非常に近しいものと考えることができます。

MCTCさん同様、バンナム出身の楽曲制作がメインで歌詞を書くこともあるような方、AJURIKAさんや渡辺量さんの書く歌詞にも、ほとんどのもので時間経過を表す表現が含まれたりしているので(詳しくはこちら→AJURIKAさん渡辺量さん)、音楽に対する意識が時間をモチーフとした歌詞につながるというのがあるのかもしれません。

同様に一連の頻出ワードも、「音楽」を軸に読み解いていくことができます。

まず「旅に出る」という言葉。

音楽は聴いている間、現実を離れ自由になり、様々な世界に誘ってくれます。例えばそれを端的に表現しているのが『Light Year Song』のこの一節。

紡ぐ言葉 繋ぐメロディ
それはまるで映画のように
僕たちを輝きの向こうに連れていく光になるから

要するに「旅に出る」という言葉は、音楽を聴くこと、特にクラブで音楽を聴く体験の比喩と取ることができます。そこから「夜」、さらにクラブという現実から遊離した夢の世界として「宇宙」がイメージできます。しかし、音楽は聴いている今その瞬間が全てであり、音楽が止まれば、朝が来てしまえば、「旅」は終わってしまう。だからこそ「旅に出る」のは「今夜」しかないのです。

だから今夜 きみと今夜
この世界を旅しよう
『だから今夜きみと』

MCTCさんの歌詞において、旅に出るときは常に「君」と一緒です。つまり「君」は「旅に出る」つまり音楽を聴くために必要不可欠なもの、すなわち「君」は「音楽」そのもののメタファーとして読むことができます。

しかし、音楽はその瞬間にしか存在できない儚いもの。聴いている間は「君」との旅も無限に続くようにも思えるが、必ず終わりは来る。その切ない関係性は度々「手を繋ぐ」というアクションで表現されます。

青い星もいまステップを踏んで
君を乗せて歌って踊る
繋いだ手に力を入れるよ
引き離されないように強く
『Light Year Song』
わかってたんだ 知ってたんだ
流れ星を見たって
100番目の朝は
君と笑いあったり 分かちあったり
手をつないだりできないこと
『99 Nights』

以上のように考えていくと、例えば『さよならアンドロメダ』はリスナーと音楽の関係を「きみ」と「君」に託して、孤独な魂が音楽で救われる様を描いた歌詞とも読めますし、『クレイジークレイジー』は、日常の中、音楽で「旅に出る」ことを夢想し恋い焦がれている様子(昼間に「早く夜のクラブ行きてー!」と悶えてる様子)を描いた歌詞と読めたりもします。

MCTCさんの歌詞は難解で意味深長に感じられるものも多いですが、ひとつの解釈として「音楽」を軸に考えると理解の補助線にはなりうるかなとは思います。また、そこからさらに「音楽」を別の何か(当然各アイドル達も)に置き換えて考えて行くのも楽しいかもしれません。

まとめとしては、MCTCさんの歌詞は韻による音の楽しさがあり、内容も音楽に関することとして読めるという、非常に音楽的な歌詞と言えると思います。それが高クオリティの楽曲と組み合わされば、それはもう「音楽の楽しさ」そのものですから、これだけの支持を得るのも当然だと思います。


『Pon De Beach』
作曲:Taku Inoue 作詞:MCTC
歌:我那覇響




『Pon De Beach』は「THE IDOLM@STER MASTER ARTIST 3 02我那覇響」に収録されている我那覇響のソロ楽曲です。

前段で挙げたMCTCさんの歌詞特徴に加えて、もうひとつ言えるのが「画が見える」という点です。そして、特にその点を強く味わえるのが『Pon De Beach』です。

さあさあさあ
燦々 照らすサンシャイン
ハイサイのスマイル
ちょっとだけバイバイ大
今日はプールサイド コーヒー
Hブランタイム

冒頭から「あい」で細かく韻を踏んだリズミカルな歌詞ですが、しっかり日常を離れ、リゾートにバケーション(これも一種の「旅」)に出かけている情景がしっかり浮かびます。

歌おうぜ ポンデビーチ
太陽を両手に 白いボートを背に 笑いながら
きこえるよ ラララ そよ風のラバダブ
身を任せたなら空も踊りだす

そのままサビでノリノリで行くかと思えば、曲のテンポも一気に落ちて、ゆったり波に揺られるような情景が浮かびます。「ポンデビーチ」「ラララ」でそれぞれ韻も踏みつつ、真っ青な海に真っ白いボート、そこに寝そべった響が笑顔で空に手を伸ばしている様子がしっかりと浮かびます。この緩急のつけ方はTaku Inoue曲の特徴のひとつと言えるでしょう。

天気ならホノルル並み そっとゆく波くる波
わたしたちだけのプライベートビーチ
口ずさむこんなメロディー セイオーオーオー
いさつはそうさ ーマン ロハ

2番に入り、舞台の詳細な情景が描かれます。ここで注目なのが「ホノルル並み」「ヤーマン」「アロハ」です。一聴するとハワイのことを言っているようですが、「ホノルル並み」という言葉から逆にホノルルでは無いこと、そしてハワイの挨拶「アロハ」と共に中南米カリブ海にあるジャマイカの挨拶「ヤーマン」が並んでいることから、実際はどこの地か分からないようになっています。つまり、この歌詞で描かれるリゾートはどこか具体的な土地を指すのではなく、あくまで抽象的な非日常としての空間であることが読み取れます。

誰でも感情移入しやすいように、固有名詞を避けあえて抽象化するテクニックもありますが、ここではあえて本当なら並ばない(しかしイメージとしては近い)固有名詞や言葉を並べて、逆に抽象化しているのが面白いところです。

あの波のせいにして 君をひとりじめ
昏のステージで 打ち明けるよ
の物 そう まるファンタジー
夢みたいな花火 打ち上げるよ ドン!

この2番サビは「黄昏のステージ」あるいはこの前段にある「夕焼けのレーザー宙に舞う」という言葉があることから夕方になっていることが分かります。そこから最後の「夢みたいな花火 打ち上げるよ」というラインに至って、花火が空へ昇って行く様子を連想させ、視線を上へ移動させながら、最後の「ドン!」で花火が開くときには、もう辺りは夜になっています。

ここの場面転換が本当にスムーズかつ美しくて、そこから一気呵成に花火が広がるスペクタクルシーンも非常に映えます。

ビックバン 音と光のストーリー オーオーオー
一発ごとに近づく距離 どんどん ドンドン
それは夏の作法 歌うたおう
もっと笑おう 声あげて オーオーオー

そんなスペクタクルな「動」のシーンから、テンポが落ちるサビで「静」のシーンに移行するのがやはり面白いですが、この最後のサビは特に場面の対比と曲の流れが特にマッチしていて非常に心地よく感じられます。

行かないでサマーデイズ
星の浜で ずっとこのま終わらないで
サーフボードの 真夏の夜の
手をつなぎたくて 君と見てる

さりげなく「サーフボードの上」と「真夏の夜の夢」で8文字の韻も決めているサビですが、「君」との距離感・関係性を「手」で示すのもこの曲から始まっています。

そして最後はもどかしさを含んだ手のカットで終わりという、余韻を感じさせる良い締め。

眠るハイビスカス 気付かず
君の手まで果てしないディスタンス
オーオーオー
きっといつか!


これだけ昼・夕・夜と豊かな情景を描いておいて曲自体は4分行かないという、情景描写(しかもライミングしながら)という点で、かなり極まっている歌詞だと思います。

曲としても、それこそ響の「昼」感とTaku Inoueさんの「夜」感がグラデーションのごとく綺麗に混じり合っていて、キャラクターソングとしてとてもバランスが良いと思います。その辺もあって個人的にTaku Inoue曲で一番好きですが、Taku Inoue曲は結局全部良いので、これからも楽しみに新作を待ちたいと思います。


 

おまけ

 

アイマス家庭用新作『スターリットシーズン』のDLCとして、Taku Inoueさんの新曲『ダンス・ダンス・ダンス』が発表されました。

 

曲はもちろん良いですが、この歌詞がまた凄くて、ここまで書いてきたMCTC詞の特徴を全て兼ね備えた、誰が聴いても一瞬で分かるほど過去最高のMCTC濃度になっています。

当然のように舞台は夜(23時)ですし、冒頭からいきなり「君」の手を取り、バスで宇宙に旅立ち最後は踊りまくるというMCTC欲張りセット。その上『Miracle Night』から「水瓶座ダンスホール」が引用されていたり、「マスターピース」なんて言葉が入っていたり、765文脈を踏まえつつ、ブランド合同お祭りゲームに相応しい景気の良さをたたえた濃厚な歌詞になっていました。

 

そんな『ダンス・ダンス・ダンス』を好きな組み合わせで自由に観れるスタマスをみんなやりましょう。たのしいよ!

 


それではこの辺で。
消灯ですよ。