【アイマス歌詞話】八城雄太さんと『スローライフ・ファンタジー』

※この記事は2020年6月3日にニコニコブロマガに投稿した記事「【歌詞話】八城雄太さんと『スローライフ・ファンタジー』 」をベースに加筆・修正を加えたものになります。

 

久々にアイマス曲の作詞家さんについてと、その方の歌詞を1つ選んで書くやつです。

今回は八城雄太/モモキエイジさんです。


八城雄太/モモキエイジさんについて

主な作詞楽曲
『S(mile)ING!』

『Thank You!』

『ガールズ・イン・ザ・フロンティア』

『New Me, Continued』

『なんどでも笑おう』など


八城さんは元バンダイナムコ所属、現フリーランスシナリオライター/作詞家で、最初期から現在に至るまでシンデレラガールズの楽曲に歌詞を提供している方です(ちなみにバンナム時代は『GOD EATER BURST』の制作などに関わっていたようです→公式ブログより)。『Thank You!』や『ラムネ色青春』のモモキエイジは八城さんの別名義で、シンデレラ以外の作詞では主にこちらの名義が使用されています。

シンデレラガールズ初のCD「CINDERELLA MASTER」シリーズでは第1弾から八城さんは『Never say Never(遠山明孝氏と共作)』『あんずのうた(佐藤貴文氏と共作)』と歌詞を書いており、『S(mile)ING!』『ミツボシ☆☆★』含めいわゆる「ニュージェネ」の1曲目を全て担当していたり、その後も全体曲を数多く手がけていたりと、アニメ主題歌でおなじみ森由里子先生と並んでシンデレラガールズを代表する作詞家と言っても過言では無いでしょう。

『Never say Never』は「遠山さんの歌詞ラフを仕上げてつくったもの」、『あんずのうた』は「佐藤くんとがっつり組んでつくったもの」(いずれも本人Twitterより)ということで、八城さん単体でクレジットが載ったのは『S(mile)ING!』が最初になります。


八城さんの歌詞は『S(mile)ING!』のような正統派から『メルヘン∞メタモルフォーゼ!』『しゅがーはぁと☆レボリューション』のようなハジけたものまで幅広く、概ね職人的にキャラクターに沿って書かれたものがほとんどです。そのため作家性のようなものを見出すのは難しいのですが、ほとんどの歌詞で「ドラマ」と「メッセージ」があるということは言えるでしょう。


まず「ドラマ」について、『小さな恋の密室事件』や『メルヘン∞メタモルフォーゼ!』のように直接的に物語仕立てになっているものもありますが、ここで言う「ドラマ」は「葛藤を乗り越えようとするさま」のことを指します。また、「ドラマ」は「物語」と不可分のものであるため、まず「物語」から触れていきます。

「物語」というのは、まず「敵」や「困難な状況」などの「乗り越えるべき葛藤」があり、登場人物がそれにどう向き合っていくのかを描くのが基本的な構造になります。そして登場人物が敵を倒したり、困難を克服しようと頑張ったり、つまり「葛藤」を乗り越えたり、乗り越えようとすることでが生まれるのが「ドラマ」であり、我々物語を受け取る側はそこに対して特に感動するわけです。(反対に「葛藤」を乗り越えられなかった悲しみを描くのもまた「ドラマ」になります)

八城さんの歌詞はどれもそういった「ドラマ」が描かれていて、それはつまり感動的な歌詞が多いということにもなるわけで、その点がとりわけエモーショナルに現れているのが『S(mile)ING!』です。以下に歌詞を引用します。

憧れてた場所を
ただ遠くから見ていた
隣に並ぶ みんなは
まぶしく きらめく ダイアモンド

まず冒頭で「憧れはあるが、自分に自信が持てず踏み出せない」という葛藤が描かれます。

それが一気に解消されるのが一番エモーションが高まるCメロ。

憧れじゃ終わらせない
一歩近づくんだ

さあ 今

そして一気に最後のサビへなだれ込むという、思い返すだけでもウルっとくるような「ドラマ」が非常に美しい形で描かれています。

このように葛藤を乗り越えるさまを力強く描けば『ガールズ・イン・ザ・フロンティア』のような曲になり、葛藤を「働きたくない」という気持ちにすれば『あんずのうた』みたいな曲にもなるなど、描かれる感情は様々ありますが、どれも聴く人の感情を動かすという意味で、感動できる歌詞と言えると思います。


そしてその「ドラマ」を通じて、送り手が一番伝えたい「メッセージ」を表現するというのもまた、物語の常套手段となります。

その意味で八城さんの歌詞はどれも言いたいことがハッキリしていて、特にメッセージが強く打ち出されているのが『ガールズ・イン・ザ・フロンティア』でしょう。

夢は他人に託すな
かけがえない権利
お仕着せの幻想 捨てて
新たな地平へと飛び出そう
守るべきは過去じゃない
ずっと Stay at the frontier!

サビは力強いメッセージだけで構成されていると言っても過言ではないですし、メロの歌詞で「ガラスの靴はイミテーション」のようにお伽話へのアンチテーゼのような葛藤を描くことによって生まれる「ドラマ」がサビのメッセージをより響かせます。(シンデレラガールズ自体がいかんせんこの歌詞のように動けていないことだけは惜しいですが)

またそのメッセージが多くの人の共感を呼び、広く評価されているのが『Kawaii make My Day!』です。特に皆の心を掴んだのがこの一節。

ああ オシャレをしたから会いたいな
最初はあの人に見て欲しくて

オシャレを相手に好かれるための「手段」ではなく、オシャレすることそれ自体の楽しさや高揚感を端的に切り取っていて、確かに名フレーズと言えるでしょう。

この曲においてもしっかり葛藤が描かれていて、例えば1番の冒頭。

『画面の中の女の子、カワイすぎ大問題』です
全員集合!輪っかになって作戦会議です
鏡の中の自分が「変わりたい!」そう言ってるから
あの手この手で リノベーション

「画面の中の女の子がカワイすぎて、意中の人が取られちゃう!」という「問題」ではなく、あくまで「自分もあんな風にカワイくなりたい!」という自分の目標としての「問題」であるあたり、一貫したメッセージになるようドラマも的確に組まれているのがわかります。

このように「メッセージ」がハッキリしているということは、それだけ受け手に伝わりやすいということでもあります。歌詞も「表現」である以上、どれだけ受け手にきちんと伝えたいことを伝えられるかというのは最も重要なことのひとつであり、その点において八城さんの歌詞が優れているのは間違い無いでしょう。


まず「キャラクター」がいて、そこから「ドラマ」と「メッセージ」を描く八城さんの歌詞はやはり非常に物語的であり、そういう意味では八城さんの「シナリオライター/作詞家」という肩書きが非常にしっくりきます。八城さんのシナリオ自体には触れたことはありませんが、いやもしかしたら知らず知らずのうちに触れてるのかもしれませんし、今はゲームであれ何であれシナリオライターの名前が出ることもあまりないですが、八城さんのシナリオライターとしての仕事も拝見したい次第です。


スローライフ・ファンタジー
作詞:八城雄太 作曲:田中秀和(MONACA)
歌:双葉杏




スローライフ・ファンタジー』は、デレステ発のCDシリーズ『THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS STARLIGHT MASTER 08 BEYOND THE STARLIGHT』にカップリングとして収録された、双葉杏の2曲目のソロ楽曲になります。

八城さんが歌詞を手掛けた楽曲からひとつ選ぶにあたって、それこそこの『BEYOND THE STARLIGHT』をはじめとした全体曲もたくさんありますし、前段で取り上げた『Kawaii make My Day!』や『谷の底で咲く花は』など、歌詞そのものが高く評価されている楽曲でもよかったんですが、個人的にこの『スローライフ・ファンタジー』がシンデレラ楽曲の中でも特に好きで、結局個人的な好みを優先しました。


スローライフ・ファンタジー』の何がそんなに好きかと言えば、音楽的な面や歌詞はもちろん、同じく八城さん作詞の『BEYOND THE STARLIGHT』と一緒のCDに収録されているというあたりがやはり大きいです。

『BEYOND THE STARLIGHT』はデレステ1周年の上り調子イケイケドンドンムードを感じさせる異常にギラギラした歌詞になってて、特に2番のこことか極まっててヤバいんですが、

(自分次第 自分次第)
全部 自分次第なんだ
(やるっきゃない やるっきゃない)
やりたい事 やりたいだけ
やらなきゃだね 人生

続く『スローライフ・ファンタジー』では一転、落ち着いたイントロから、前しか見えないみたいな『BEYOND THE STARLIGHT』の歌詞とはこれまた対照的な後ろ向きとも取れる歌詞から始まります。

ホウリナゲ ホウリナゲ
ぽーんと空のかなた
ホウリナゲ ホウリナゲ
楽しくないことは全部

以降も度々登場するこの「ホウリナゲ(放り投げ)」という言葉は、「スローライフ」の「slow」と「throw」を掛けているというのをこちらのブログで読んでなるほどなあと思ったりしましたが、ともかく対照的なこの2曲がどちらも八城さんの歌詞であるという点には、非常に味わい深いところがあリます。

このまま『スローライフ・ファンタジー』の歌詞を追って行きますが、全体的にもギラギラ感なんていうのは皆無で、淡々と「穏やかに、小さな幸せを大事にして生きていきたいね」的なことが語られていきます。

ハッピーの魔法 
それはキャンディだって
キミが言うなら そうなんだろうって
なんか笑っちゃって 
幸せになっちゃって
いいよね?
 
チカラぬいて

「ハッピーの魔法」としてキャンディなんていうのはあまりにも、それこそ笑っちゃうくらいにささやかなわけですが、キャンディや、そんな些細な会話で生まれる笑いのような、いわば「幸せの最小単位」を求めるような歌詞がここからのサビで続きます。

たまに
美味しいものも食べたい
全身で喜びたい
クツを放り投げ 寝転びたい
空はキレイだ

美味しいものを食べたり、喜んだり、寝転んで見上げた空がキレイだったり、そういった小さな幸せがたまにあればいいよねというこの歌詞は、「TO BE A STAR!」で「幸せの最大値」を目指す『BEYOND THE STARLIGHT』とはやはり対照的に作られています。

『BEYOND THE STARLIGHT』との対比で言えば、流れは前後しますが『スローライフ・ファンタジー』1番のやたら話がデカいサビ冒頭もまた分かりやすい対比になっています。

地球は回り続ける
ハムスターの回し車
走りたければ走ろう
全部 おもちゃだ

対する『BEYOND THE STARLIGHT』は次の通り。

ゴールは無い世界
妥協はしない
走れ (走れ) 走れ (走れ)
前を (前を) 向いて (向いて)
走れ!TO BE A STAR!

見るからに対照的な歌詞ではありますが、前提となる意識は一致していて「ハムスターの回し車」と「ゴールは無い世界」などはほぼ同じ意味であり、結局のところこの2曲は「世界とどう向き合うか」という点で同じことの裏表を歌っているのです。なので、この2曲が並んでいるのはやはり重要であり、切り離せないところだと思います。


『BEYOND THE STARLIGHT』との対比はここら辺にして、本題の『スローライフ・ファンタジー』に戻ります。それでは2番の頭から。

トオリアメ トオリアメ
胸の中 水たまり
トオリアメ トオリアメ
溺れてしまいそうなくらい

こぼしちゃえ こぼしちゃえ
いっぱいになる前に
こぼしちゃえ こぼしちゃえ
どうせなら勢いつけて

1番の「ホウリナゲ」から「トオリアメ」「こぼしちゃえ」と続く韻が楽しい歌詞ですが、八城さんはこうしてリズミカルに韻を配置するのもよくやっていて、きっちり音としての楽しさも入れてくるのも抜かりないあたりです。

内容としては、「幸せの最小値」について歌っている1番に対して、ここではストレスへの向き合い方、ストレスも最小に抑えてこうというものになっています。

「雨」が映像作品において沈んだ気持ちの比喩であるというのは、アイマスの各種アニメを見ていても分かるかと思いますが、文章においても同様で、例えば同じく八城さん作詞による『Sun!High!Gold!』の使われ方からも読み取れます。

さんたんたる さんざんなる
ざんざん降り超えて

というわけでここの「トオリアメ」も沈んだ気持ち、ストレスの比喩であり、そんなものは溜め込まずに吐き出してしまおうやということを歌っているのです。

そして2番サビでは1番同様デカい話が始まります。

宇宙は広がりまくる
スペクタクルな風呂敷
広げすぎて困ったら
全部 夢オチ

1番サビも含め、なんで急にこんなデカい話が始まるのかといえば、先にも述べた「幸せの最小値」と「幸せの最大値」の対比のように「大きい話」を出すことによって「小さい話」を際立てるテクニックなんだろうと思います。

ついでにまた『BEYOND THE STARLIGHT』との対比になってしまいますが、先に挙げた『スローライフ・ファンタジー』2番冒頭と対になる箇所がこちら。

ぶつかって火花が散って
つながって星座になって
永遠に語り継がれる僕らの神話(ファンタジー)

話の規模がデカい!

星が繋がって星座になるというのは、森由里子先生の『Star!!』から『M@GIC☆』で描かれたモチーフと連続したものでもありますが、ともかく『BEYOND THE STARLIGHT』のような神話級の「ファンタジー」があれば、あくまで小さな物語としての「ファンタジー」があってもいいだろうという意味での『スローライフ・ファンタジー』なんじゃないでしょうか。

スローライフ・ファンタジー』に戻りますが、2番サビはこう続きます。

いつも
なんにもせず眠りたい
全身でだらけてたい
ドレス放り投げ まるまりたい
夜はミカタだ

2番に通じるトピックとして、サビもやはり幸せについてというよりは「ノーストレスで生きていたい」といった感じになっています。「たまに」小さな幸せを感じて「いつも」ノーストレスで穏やかに過ごして生きたいねということがここまでで語られることになります。

ちなみに1番サビでは「靴」2番サビでは「ドレス」を放り投げているわけですが、当然そこで連想されるのは『シンデレラ』でしょう。

『シンデレラ』のように煌びやかな「アイドル」という「大きな物語」だけではなく、あくまで「個人」としての「小さな物語」も無いとやってられないよねというこの感じは、煌びやかな世界の裏の話が描かれる『アイドルマスター』らしい気もします。

ここまでである程度「メッセージ」的なものは見えてきたかと思いますが、前段で語ったような「ドラマ」はあまり見えないような気がします。

しかし「ドラマ」もちゃんと描かれていて、それがふんわり立ち現れるのがCメロから最後のサビにかけて。

ホントに大事なものは 
そんなに多くないから
両手で持てる分だけ 大事にしよう

そして
のんびり歩いて行こう
心も体も軽く
全て放り投げ 笑いあおう
キミといっしょに

1番2番で語られていたのはあくまで「〜したい」という受身的な願望でしかなかったのが、ここに至って「〜しよう」と能動的に変化しています。

「ドラマ」と呼ぶには、あまりにささやかかもしれませんが、「幸せの最大値」を求めるような「大きな物語」じゃなくていいということを語ってきたここまでの話を考えても、これくらいのささやかさな「ドラマ」こそがまさにふさわしいんじゃ無いかと思います。


ここまで敢えてこれを歌う杏のキャラクター表現としての面は触れてきませんでしたが(語れるほど追ってないので)、初めは完全なイロモノ枠だった杏が、こうして全体を俯瞰するような立ち位置に収まっていたり、演じる五十嵐さん含め、そういう存在がいるということそれ自体はいいなあとぼんやり思った次第です。



それではこの辺で。


消灯ですよ。