【アイマス歌詞話】渡辺量さんと『光跡』 

※この記事は2019年2月26日にニコニコブロマガに投稿した記事「【歌詞話】渡辺量さんと『光跡』  」をベースに加筆・修正を加えたものになります。

アイマスに関わりの深い作詞家さんの歌詞の特徴と、その方の歌詞を1つ取り上げてじっくり味わっていくコーナー。今回は数少ないながらも印象的な歌詞を残すことでおなじみの渡辺量さんです。

 

 

渡辺量さんについて

主な作詞楽曲
『Dazzling World』
『Twilight Sky』
『アマテラス』
『楽園』
『光跡』
(作曲のみでは『MUSIC♪』『Destiny』も)

渡辺量さんは、バンダイナムコスタジオに所属し、ゲームサウンド周りの業務を幅広く手掛けていて、最近では『エースコンバット7』(めちゃくちゃ面白かったです)のサウンドディレクターを務めていらっしゃいました。

サウンド周りでの仕事が中心ということで、作詞を手がけられた数は多くないのですが、しかしそのどれもが多くの人の心に残り、長く愛されるものになっています。

渡辺さんの歌詞はどれも「流れ行く時の中、その変化までをひっくるめて全てを愛する」という想いが一貫して織り込まれています。これは、ともすれば「永遠に君を守るよ」的な手垢にまみれた薄い表現にもなりかねないのですが、渡辺さんの歌詞はどれも絶対に来る「終わり」までも受け入れその全てを愛するという、地に足のついた表現になっています。それゆえに「愛」や「大好き」といったストレートな表現でも、上っ面でなく心に響くものになっているのです。

それが何より端的に表わされているのが『Dazzling World』のこの一節でしょう。

いつか二人は星になる
でも過ごした日々は永遠よ
現在・過去・未来全ての
あなたを愛し続けるわ!


人生には終わりがあるからこそ限りある「今」がかけがえのないものになるし、かけがえのないものにしていきたい。このメッセージは、他の楽曲でも繰り返し描かれています。(このように人生について語る歌詞が多いため、定番の比喩である「旅」という言葉がよく出てくるのも渡辺さんの歌詞の特徴です)

廻りゆく生命(いのち)の中で
一度きりの物語(ストーリー)今旅立とう
『アマテラス』
一度きりの旅だから
自分だけの旅だから
好きなもの集めるんだ
間違ったっていいんだ
『Twilight Sky』


また、かけがえのない「今」が積み重なった「過去」もまた、大事な思い出となり、それは「未来」をも照らしていく。このように「今」の輝きが「過去」「未来」へと、さながら永久機関のように巡っていくことも「限りある生」と並列して描いています。それが特に現れているのが『Twilight Sky』で、少し長めに引用を。

鍵かけた放課後 グラデュエーション
いつまでも 続くと信じていた
Fallin' skies
星は束になって落ちて
Guiding lights
それは幸せな道へと続くサイン

まず『Twilight Sky』がどんな曲か説明すると、「放課後」というキーワードからも分かるように学校が舞台となっています。「学生」という子供から大人へのモラトリアムな時期、それを黄昏時の空になぞらえ、そこに歌唱する多田李衣菜の「にわか」的側面を象徴させています。

そんなところで引用箇所に入っていきますが、ここでは「グラデュエーション(卒業)」つまり子供から大人への変化の時が描かれています。そこから場面が変わり「星は束になって落ちて」と続きますが、『Twilight Sky』では、このように流れ星が繰り返し描写されています。これは「変化」の象徴であり「今」の輝きが「過去」のものになっていく様子と読み取れます(実際他の楽曲でも「今」の輝きを光や光にまつわるモチーフに託した表現が繰り返し見られます)。そして、最後には星が流れた(今が過去になった)軌跡が「幸せな道へと続くサイン」つまり「未来」への道しるべとなることが示されます。李衣菜に即して言えば「今は“にわか”でも、その“にわか”でいる時間も、やがてかけがえのない財産になる」と優しく背中を押すメッセージとも取れるでしょう。

このように渡辺さんの歌詞は「現在」「過去」「未来」をめぐりながら、前向きで優しいメッセージを紡ぎます。「時間」という誰もが平等に付き合っていかなければいけない普遍的なモチーフを扱った上で、大事なことは分かりやすくストレートな言葉にしてくれるのですから、それは皆の心に響くのも当然でしょう。もちろん、それらは大前提として量さんの圧倒的な「優しさ」があってこそ書ける歌詞なので、何よりまず、その「優しさ」こそが量さんの歌詞における最も大きな魅力と言えると思います。

というわけで、次はそんな渡辺さんの歌詞から『光跡』を取り上げて、細かく見ていきたいと思います。

 


『光跡』



『光跡』は昨年10月、長い歴史に幕を下ろした「THE IDOLM@STER STATION!!!」の集大成となるCD「HE IDOLM@STER STATION!!! Long Travel ~BEST OF THE IDOLM@STER STATION!!!~」に収録された書き下ろしの新曲です。作曲はご存知中川浩二さん。編曲にはたまたま渡辺量さんの隣にいたという、当時のバンナムとしては新人だったミフメイさん。

長年アイマスサウンド面を支えてきた中川さんが中心となり作曲をして、時の流れを描くのに長けた渡辺さんが作詞、そこにほぼアイマスに携わっていなかったミフメイさんが編曲で入るという、適材適所ながら内向きになりすぎないこの座組からして、アイステ最後の曲としてまず間違いないあたりです。ラジオでも思いを語ってらっしゃいましたが、中川さんには本当に感謝しかありません。

それでは本題の歌詞に入りましょう。

まずは最初の一節。

出発のサイン 目を逸らして
先行くあなたの 背中を追い掛ける
「いつもみたいに また会えるよ」
何度も 言い掛けては 鳴り始めるベル

いきなり別れの場面です。「出発のサイン」「鳴り始めるベル」あたりから連想するに、どこかの駅(当然「THE IDOLM@STER “STATION”!!!」にかかっている)での出来事でしょう。そして「見送る側」からの別れである事も読み取れます。ここでは第一に「今」の寂寥感が強調されています。

(余談ですが、渡辺さんの歌詞では『Twilight Sky』以降、冒頭に基本となる状況が描写されますが、それによって基準ができ、後の変化や時間経過を明確にイメージできるようになっています。最近で言えばシンデレラ『TRUE COLORS』において、「虹」というモチーフを描くにあたり「雨上がり 広がる空」から始めていて、描写の丁寧さが極まってるように感じました。)

それから視点は「過去」に飛びます。

遠く 始まりに煌く
引かれ合う 軌跡の スペクトラム
いつか 歩んできた道が
ほら 明日を輝かせるから

これは先に引用した『Twilight Sky』で語られていた内容がより分かりやすく反復されているのですが、「今」から「未来」への繋がりが強い『Twilight Sky』と比べ、『光跡』では「過去」から「未来」への繋がりに重きが置かれています。そしてこの一節を機に、前段の寂寥感が反転するサビへと向かいます。

(いつだって) 隣で笑う あなたがいて
(どこまでも) 響く 最高のハーモニー
(いつまでも) この胸に刻んで
宇宙(そら)まで届け 道しるべ

サビでは、ただノスタルジーに浸るのではなく、その輝かしい「過去(思い出)」が「未来」への道しるべになっていく様を、渡辺さんの歌詞史上でも屈指のエモーショナルさで描き出します。

このように『光跡』の歌詞は「別れ」を惜しみ、「過去」を懐かしみながらも、その寂寥感さえ優しく包み込み、最後は「未来」へと優しく背中を押すという、まさに渡辺量節全開なものとなっています。

その優しさが一番強く感じられるのが2番冒頭です。

帰る途中で 気付いたんだ
無限に感じた 二度とない時間に

1番から時制は進み「別れ」の後へ。「失って初めて気づく」とはよく言いますが、それを「無限」と「二度とない時間」というふたつの時を対比させて描く、渡辺さんならではの表現がなされています。あとさりげに「(気付)いたん」「に感(じた)」「時間」と細かく中間韻も踏んでいます。

そして何より素晴らしいのが続く後半部分。

変わってゆくこと 恐れる私は
誰より あなたのこと 大好きな証

「変化」への恐れや抵抗感は概ねネガティブなものと捉えられますが(アイステ終了に際してもそのような流れがありました)、ここではあくまでその「感情」に寄り添って、優しく肯定してみせます。アイステの終了に思いの外ショックを受けていた私としても、このラインには救われました。さらに「私」と「証」という自然かつめちゃくちゃエモい韻も仕込まれていたりもして、ここは本当に素晴らしいラインだと思います。

そんな感じで全ライン語っていきたい気持ちはありますが、キリがないので主だったところを抜粋していきます。

これはいわゆる「落ちサビ」の一節。

「はじめまして」照れるあなたに 出逢えたこと
懐かしく 響く 永遠のハーモニー

ここはまずアイステ開始時をリスナー目線で回想している様子と取れますが、同時にパーソナリティーから新規のリスナーへ向けたものとも、原さん沼倉さんを迎える今井さん目線とも、あるいは浅倉さんを迎える原さん沼倉さん目線のものとも取ることができます。

このように複数の視点を内包した表現は、この『光跡』全体を通しても見られますし、他の渡辺さんの歌詞でも度々見られます。これは様々な人物に寄り添って言葉を紡げるという、これまた渡辺さんの深すぎる優しさが見て取れる特徴のひとつでしょう。

そして最後の最後。

まだ見ぬ 世界へ
自分を信じて 旅立とう

「見送る側」だった1番冒頭から、今度は自分自身が未来へと進んでいくという、これ以上なく綺麗な着地を見せています。これほどストレートな言葉でも、曲を通して聴いていけば、それまでの想いの積み重ねによって十二分に心に響くものとなっています。

そんな開けたメッセージで寂しさを肯定しつつも背中を押してくれる歌詞と曲とで、この『光跡』はアイステリスナーは勿論、パーソナリティーの3人にとっても最高の贈りものになったんじゃないかと思います。素晴らしい仕事をしてくださった皆さんに感謝です!


 

これの元となる文章を書いた頃からさらに時は進み、「THE IDOLM@STER STATION!!!」の後番組である「THE IDOLM@STER MUSIC ON THE RADIO」のパーソナリティーである沼倉愛美さんが番組を卒業することになりました。これでアイステから続く流れは完全に無くなり、いわゆる「765AS」のメンバーが定期的に出るアイマスの番組も完全に無くなりました(「10月のパーソナリティー中村繪里子さん」とアナウンスされていたことから、今後は各ブランドから1人づつ月替わりにパーソナリティーが選ばれることになりそうです)。まあ10月は繪里子さんがやりますし、5ヶ月にいっぺんという意味で定期的と言えなくもないですが、流石に間が長すぎるので、実際さみしさの方が大きいです。

 

765メンバーの声を毎週聞けるアイマスの番組が消えたさみしさもそうですし(MA4も全部出ちゃったし)、ラジオ番組としても個人的にパーソナリティー交代制は面白くはなり得ないと思っているので、今回の体制変更には「なんだかなあ」という思いでいっぱいです。

 

そんなこともあって、今回ブロマガで【歌詞話】として書いてきた記事を修正・再掲する流れの中、元の順番を変えてこの記事を持ってきました。まだそこまで整理はついてないですが、さしあたり『光跡』を聴いて癒されたいと思います。

 


それではこの辺で。


消灯ですよ。