【ミリアニ】『ミリオンライブ!第3幕』でどれだけ凄いことをやってるかを論理的に解説する(ネタバレ)

2023年10月8日のTV放送に先駆けて劇場先行上映の始まったアニメ『アイドルマスターミリオンライブ !』第3幕を観ました。全3幕構成で第3幕は第9話〜第12話まで。

 

第1幕、第2幕の感想↓

いよいよ大詰めとなる第3幕。ただ第2幕までの流れ上、あとは未来たちTeam8thが壁を乗り越えデビュー、劇場もオープンして大団円という道筋はついているので、ここから変に失速することはまず無いだろうという感じでした。

それで実際どうだったかと言えば、翼・静香のドラマを丁寧に描きつつ、最後の11話後半、12話を丸ごと使ってライブをやるという構成はなかなか大胆で予想できませんでした。予想できませんでしたが観てみれば納得で、「ライブ」でこそ物語を語るという『ミリオンライブ!』の魅力を最大限に活かした素晴らしいクライマックスになっていたと思います。本当に最後の最後までよくできていました。

 

というわけでここから各話ごとにどう良く出来ているかを解説していきますが、今回は例のごとく詰め込まれている古参向けネタはなるべく触れず、純粋に脚本や演出など作品としての質について書いて行こうと思います。まあ一応初期から見てきてはいる人間なのでどうしても触れてしまう部分もありますが、あくまでどう考えても良く出来ている部分中心で。

 

目次

 

第9話

未来・静香・翼・紬・歌織の「Team8th」が765PRO ALLSTARSのバックダンサーとしてライブに参加する回。この回は「Team8th」+プロデューサーの計6人がそれぞれに壁にぶつかり、壁を乗り越えるまでを1話で描き切る手際の良さに、毎度のことながら圧倒されます。

 

第6話のように視点がポンポン変わってそれぞれのキャラクターの心情を描いて行く形になりますが、やはり混乱しないのはちゃんと「先輩との実力差に圧倒される」という出来事についての反応で一貫しているからで、一つの出来事に対する想いの違いでキャラクターを描くという、まさに理想的な群像劇の形になっています。

千早の歌に衝撃を受け焦る静香、経験の少なさ不安に感じる紬と歌織、悩むアイドルに言葉をかけられなかったプロデューサー、それぞれの葛藤の置き方も的確ですが、今回のメインは唯一楽々こなしているように見える翼。なんでもできるが故にアイドルにも真剣に向き合ってこなかった翼が、尊敬する先輩の美希に「このままだと未来たちに負けちゃうかもね」と突き放されることによって、完全無欠だと思っていた自分に足りないのが「本気」であることに気づくのが今回のハイライト。もちろんこれは急に出てきた話ではなく、第6話で翼が静香や歌織のアイドルに対する想いに触れて「自分には無いもの感じるがそれが何か分からない」という描写が布石として置かれているので、今回の気づきも非常に腑に落ちる形になっています。

そしてそれぞれ別の場所で壁と向き合ったメンバーが、朝のレッスンルームという同じ場所に集まることでそれぞれの決意を確かめ合うという展開は、やはり群像劇ならではのカタルシスがあります。

 

選曲も良くて、満を持しての『READY!!』はやはり熱いですが、個人的にたまげたのは『Snow White』がかなりフィーチャーされていたところ。

『Snow White』は森由里子先生による歌詞が超素晴らしくて、詳しくは昔書いた長文を読んでいただきたいのですが、

この曲は「優しく別れを乗り越えていく歌」であり、如月千早というキャラクターがどういう人物なのか、この歌ひとつでしっかり示唆されています。そしてそれは次の第10話にも呼応していくのですが、今回すごいなと思ったのがこれを静香が歌うところ。

基本的に『Snow White』は別れを乗り越える歌である一方、未知の未来へ進んでいく歌とも捉えることができます。

白い雪のように

光る雪のように

この心を白く染めて

歩いてゆく

足跡も 轍さえない道を

これが静香たちの状況にも意外なほどフィットしていて、曲の本来の意味に加え新たな側面を照らし出すこの選曲の上手さには本当に感服しました。

 

ちなみにこの回で実は未来だけ唯一特に悩んでいないというか、春香との会話も背中を押してもらうようなものではなく、あくまでライブの魅力に対する共感という形になっています。ここでは未来が観客としてライブを観た時の感動や周囲の観客が楽しんでいた様子が改めて語られますが、これがまた最終話で活きてきます。

しかしでは未来のドラマはどのような形で描いていくのだろうかと疑問が残るのですが、それが意外な形で示されるのもまた最終話となっています。

 

最後に古参ネタは触れないと言いつつ765AS関係はやっぱり気になってしまうのでざっと触れておきます。

・1人で練習する美希はライブの時壁に向かって練習するアッキーオマージュ?

・「雪歩は黙ってて!」に行きそうな構図から行かないことで成長を示すのが良い

・劇マス同様、後輩が悩む場面で共感してあげられる雪歩はやはり強い

・『READY!!』でAMCGマークとパピヨンマークが重なるのはやはり熱い

・ダイジェスト曲名当てクイズ、『自転車』と『inferno』は分かった

 

 

第10話

静香の父親との確執が解決する回。ちゃんと決着はつけてくれるだろうとは思っていましたが、ここまで鮮やかにやってくれるとは。第6話で古参向けの目配せぐらいに思っていた静香と志保の関係も、「父親」というキーワードでしっかり掘り下げられたりと、作劇に無駄がなくて本当に気持ちがいい。1話で1人のドラマを描くのが普通のやり方だと思いますが、父親との関係に色々あるメンバーを集めてまとめて描こうという、その詰め込み方には毎回執念を感じます(流石に志保は匂わせ止まりでしたが)。

 

序盤で登場した笑顔で歌う幼少期の静香、あれが実は疲れた父親を元気付けようとする姿だったという展開で、まさかあれが伏線になっているとは全く思わず「どこまで作り込まれているんだ」と戦慄しました。その場面ではしっかり機能を果たしつつ、後々別の意味をもってくるという、お手本のような伏線です。

静香の父がかつて娘に心を救われたことを、「父に早く認められたい」という思いに囚われていた静香が、父を亡くした親子との交流を通じて「自分がなぜ歌うのか」「誰に向かって歌うのか」をそれぞれに思い出すわけですが、そんな2人がついに対面した時は表情ひとつで通じ合うという演出が非常にスマート。2人の想いはそこまでの物語で十二分に語られているので、ここでダラダラ語り合ったりしたら同じことの繰り返しになってしまいますし、最小限の動きで最大限の効果を産む全く無駄のない作劇となっています。

またここまで気がかりだったのがプロデューサーのキャラクターが薄いんじゃないかという点でしたが、この話はプロデューサーの個性や成長も感じられて、「会場の規模は関係ない、みんな真剣にやっている」と静香の父を説得する姿は、彼の熱いキャラクターが出ていて良かったです。

同様にここまであまり見せ場の無かったエレナもいい味を出していて、重くなりがちな今回のエピソードでしたが、明るいキャラクターでその空気を中和する重要な役割をになっていたと思います。

 

そして今回の白眉であるライブシーンですが、まずは第2話のオーディションを連想させる静香の「背中を押して欲しい」という台詞はずるい。

質素なステージでバラードを歌うということで、はじめは「映像的に単調になってしまうのでは?」と思いましたが、後半では静香の背中に翼が生え羽が降り注ぐド派手な演出が展開され「やっぱりちゃんと考えられているなあ」とニコニコで見れました。この演出は第2話同様突飛に感じてしまう人もいるでしょうが、未来と翼に背中を押してもらうことで得た自信の象徴になっていて、ただのファンタジーではなくちゃんとドラマとして筋の通った演出になっていると思います。

 

 

第11話

劇場のこけら落とし公演に向けての合宿、そしてこけら落とし公演の前半を描く回。合宿までは分かるんですが、後半でもうライブを始めちゃうのは驚きました。展開が早い。またそうなれば次の第12話は丸ごとライブをやるということですから、かなり攻めた構成だなあと思いました。勿論単に気をてらっているわけではなく、実際に観ればちゃんと意図も伝わるので、その辺りは順を追って書いて行きます。

 

まずは前半の合宿パート。これは第5話の「原っぱライブ」の準備と似た展開ですが、あの時は劇場に泊まるのは8人だけで、ライブも全員参加では無かったのが、今回はついに全員が揃ったうえでの合宿ということで、ライブへの期待が高まる対比になっています。第5話では寝袋だったのが今回は布団になり、ここは「もう芋虫ではない」という対比になっているのかなあと思ったりしました(絵面は変わらずシュールで面白いですが)。

本作ではよくライブの前にこうして皆が集まり、一致団結するシーンが丁寧に描かれますが、そういったシーンがあることでライブの前のタメになりますし、何よりライブシーンが独立したMVではなく、きちんと物語の一部となるのです。だからこそ本作のライブパートは特にドラマティックに感じられるのだと思います。

合宿パートでは今までスポットが当たらなかった歩が活躍していて、ギターに合わせてのダンスシーンはかなり見応えがありました。

 

あとメタ的なことで言うと、合宿といったとき劇マスからアイマスアニメの慣習と化していた例の合宿所がよぎるもそんなことはなかったのと、最終回付近でセンターのキャラクターがシリアス展開に入るのが今回は「じゃんけんで負ける」というギャグ的なものになっていたのとで、アイマスアニメとしてちゃんと新しいことをやろうとしていると嬉しくなりました。

 

後半はついにこけら落とし公演が開始。円陣の描写は第9話で先輩の円陣に加わった所から、今度は自分たちだけでやるという所で熱い対比になっていますし、若干メタ的にはなりますが先輩の手をあげる円陣ではなく一歩踏み出す円陣になっていて、「精神は受け継ぎつつも新しいことをやる」という意思が感じられて良かったです。

ライブはTeam6thの『Dreaming!』からスタート。前段の円陣シーンと合わせて、ここまでほぼセリフも無かったエミリーに滑り込みでスポットが当たる形になりました。まあ初見ではどういうキャラかほぼほぼ分からないと思いますが、「仕掛人さま?」と確実に印象には残ると思います。

 

そして満を持して披露されるのが翼のソロ曲『ロケットスター☆』。勿論ステージそれ自体の良さはあるのですが、それ以上に「あの本気さに欠けていた翼が自ら志願してトップバッターを務めている」という物語性が何よりも感動的。この先のステージもそれぞれに何かしら物語性を乗せていて「ライブから物語が見えてくる」というミリオンライブ!最大の魅力が最大限描かれていたと思います。

どうしてもライブシーンの間はストーリーが停滞しやすいものですが、本作のようにライブシーンそのものに物語性を付与できたり、ライブ中も止め絵や回想で手際よくストーリーを進められるからこそ、1.5話丸ごとライブという構成が実現できたのだと思います。下手にやれば物語としては退屈なPVのようになっていたでしょう。

 

最後に不穏な機材のショートが描写されますが、「まさかあれ再現するのか。大胆だなあ」とこの後起こる全てを察してちょっと笑ってしまいました。

 

 

第12話

第11話から引き続きの丸ごとライブ回。今回披露される楽曲は、特にステージに出ることによるギャップや物語性のあるアイドルでしっかり意図を持って固められていたと思います。唯一意図が分からないのがまつりの『フェスタ・イルミネーション』なのですが、映像的な派手さをだすための選曲か、あるいは第3話における現場大臣との関わりなど、劇場のステージとの関わりが強く描かれていたからでしょうか?

 

続く『チョー↑元気Show☆アイドルch@ng!』は、ここまでただのアイドルオタクにしか見えなかった亜利沙がちゃんとアイドルをしているというギャップが活きる選曲。さらに「桃子の姿勢に触発された」とダメ押しの物語性までつけてきます。あとメタ的には「アイマスのアニメは最終話で@が付いた新曲が出る」といういつからか定番となった流れ(劇マスの『M@STERPIECE』から。デレアニは『M@GIC☆』、アニメSideMは『GLORIOUS RO@D』が最終話で流れる。ちなみに今年のアニメ『U149』の最終話で流れるのは『キラメキ☆』。元は『KIR@MEKI』だったのが「全体曲ではない」等の理由で変わったらしい)で、「ミリオンには『チョー↑元気Show☆アイドルch@ng!』がある!」と半ばネタ的に言われていたことへの目配せもあるかも。

 

そして第8話で割愛されたTeam5thの新曲『バトンタッチ』が初披露。第4話で「原っぱライブ」に不安を示す立場だった紗代子・可憐のうち、可憐は第7話で成長を見せていた一方、紗代子はその後の描写が特に無かった中、ここでついに未来に想いを伝え眼鏡を託すという最高の形で成長が描かれました。まあ眼鏡を外す意味は作中では分からないでしょうが、もともと「原っぱライブ」に後ろ向きだった紗代子が未来に感謝を伝えて堂々とステージへ向かうという展開で十分感涙のシーンとなっていたと思います。そこから歌われるのが『バトンタッチ』というのも完璧。

 

ということで問題の『Sentimental Venus』に突入するわけですが、監督もパンフレットのインタビューで語っていた通り、実際これはかなり危うい判断だったと思います。

第11話最後、ライブ中に機材トラブルが起こることが示唆されて、ある程度歴史を知っている人であればまず「THE IDOLM@STER MILLION LIVE! 2ndLIVE ENJOY H@RMONY!!」2日目の『Sentimental Venus』を連想するでしょう。そして実際本作でも歌唱メンバーから先輩立ち位置から客席の反応に至るまでほぼほぼ完コピしているわけです。しかし今でこそ美談のように語られていますが、結構なトラブルであるのは間違いないですし、一歩間違えば露悪的に映ったり、内輪で陶酔してるようなものにもなりかねなかったと思います。

でもそうなっていないのは、綿田監督がそこをちゃんと心得てあくまで「あの出来事をモチーフにしたフィクション」として一線を引いた描き方をしているからでしょう。それに監督は「全体を通して見るとそれほど観客の存在感を前に出した作品にはしていない」と語りますが、とはいえ要所要所でライブを観に来る観客の存在を示したり、第1話では未来と静香を通して観客がどれだけライブを楽しみにしているかという部分をしっかり描いているので、本作の中で起こることも単に都合のいい舞台装置としてではなく、血の通った人間の想いとして感じられるようになっていると思います。それでなくとも、ここまで現実のアイマスライブにおける「プロデューサー」の存在を意識した描写をするのはなかなかに踏み込んだと思いますが、これも「ライブ」が魅力のミリオンライブ!のアニメならではでよかったと思います。

またここで未来がライブを続けるよう掛け合うとかではなく、プロデューサーが自ら率先して嘆願するという熱い展開も、最終話にふさわしい彼の成長が感じられました。

 

機材が復旧してからの1曲目は『瑠璃色金魚と花菖蒲』。紬はここまでとことんポンコツに描かれていた分、この圧倒的なステージのギャップが非常に映える。歌織の『ハミングバード』と合わせて、「原っぱライブ」でのトラブルを経験していなかった合流組2人がこのトラブルからのバトンをつなぎ、真に劇場の仲間となっていくという流れはとても理にかなっていたと思います。

 

最後はここまで唯一未披露だったTeam3rdの『オレンジノキオク』が披露され、そしてついに未来たちTeam8thの登場となるわけです。

思えば終始活躍していた一方、結局未来のドラマの掘り下げはなかったなあなんて思っていたままクライマックスを迎えましたが、未来の「自分には夢がなかった、それが先輩のライブを観て見つかったのだ」と語るMCで気づきました。未来の夢はやりたいこと、夢中になれることを見つけることであり、それは第1話で765ASのライブを観た時点で叶っていたということなのです。すでに夢が叶っているのだから悩むことはないし、だからこそここまでまっすぐに進んでこれたということなのです。これがかなり面白い発想の転換で、物語の「主人公」というのは多くのキャラクターと関わらなければいけないため、どうしても個性が出しづらく、何を考えているか分からない人物になりがちなのですが、「もう夢が叶っていて葛藤がない」という人物にすることで、個性を出しつつも多くのキャラクターと関われるフラットなキャラクターにすることができるのです。今回の未来のキャラクター像は、特に今回のような多くのキャラクターが登場する群像劇の主人公として、かなり理想的だったと思います。

 

このように主人公である未来のキャラクターも明確になり、多数のキャラクターが緻密に絡み合ったこの物語のクライマックスに歌われる歌が『REFRAIN REL@TION』という完璧さよ。このタイトルがあまりに本作を的確に表しているので、タイトルが出た時点でお手上げ状態になってしまいました。素晴らしすぎてライブ後の雪の中、春香・千早・美希がどう見ても冬の服装ではないということも気になりません。

 

唯一気になったのが、第5話の未完成の『Thank You!』から完成版の『Thank You!』が流れれば綺麗だったのにというところですが、監督の『Thank You!』『Welcome!!』『Dreaming!』『Brand New Theater!』を順番通りにかけたかったという言葉を見て「じゃあ仕方ないか」となりました。

 

ラストには765ASと合流したミリオンスターズの姿、そして謎の新キャラ(詩花・玲音)の登場と、この先の期待を遠慮なく煽るようなラストも良かった。

 

 

まとめ

本作が完結したことで、評価も概ね定まってきたところがあります。基本的には絶賛ですが、やはりアイドル毎の出番の多寡は確かにあって、正式なライブシーンが無い(Team7th)など、そういった不満は確かに出てきます。しかし、12話という短い尺の中で39人全員に最低限のスポットは当てるのみならず、ちゃんとそれが物語に有機的に絡んでいて、しかし物語はシンプルで分かりやすく、おまけに1.5話丸ごとライブという挑戦的な構成までやっている。客観的に見ても非常に手間をかけて緻密に作られた(構想6年も納得)傑作と言って差し支えないと思います。一朝一夕で作れる作品ではない。

 

綿田慎也監督の深すぎるミリオンへの理解、それを的確に脚本へと落とし込む加藤陽一氏の手腕、その脚本を素晴らしいアニメーションに落とし込む白組の技術力、そして10年間アイドルと向き合ってきたキャストの演技力、それらの全てが噛み合ったとても幸福なアニメ化でした。アイドルマスター全体で見ても、アニマスや劇マス以来のエポックメイキングな作品になったと思います。

 

今回揃えたスタッフや3Dモデルをこの1クールで終わりにするのはあまりに勿体無いので、2期なり劇場版なりを是非お願いしたいところです。前述の不満も続編をやれば全部解決するわけですから。

 

しかしどれだけよく出来ていてもやはりヒットするかは時の運で、情報量もあまりに多いので初見勢にどこまで刺さるかはわかりません。願わくば日曜朝という時間も噛み合って広い層に観て貰えば良いなと思います。

 

放送も楽しみ。

 

 

それではこの辺で。

消灯ですよ。