アニメ『アイドルマスター ミリオンライブ !』のすごさを論理的に解説する(ネタバレ)

2023年10月のTV放送に先駆けて劇場先行上映の始まったアニメ『アイドルマスター ミリオンライブ !』第1幕を観ました。全3幕構成で、第1幕は第1話〜第4話まで。

 

まず率直な感想として、めちゃくちゃ良かったです。自分が見たかった「ミリオンライブ !」が全て詰まっていて、まだ3分の1ですが既にものすごい満足感でした。

 

というわけで、ここからこのアニメ『アイドルマスター ミリオンライブ !』のすごい点を「ミリオンライブ!のアニメとして」「物語として」「アニメーションとして」の3点に分けて書いていきます。ネタバレありです。

 

目次

 

「ミリオンライブ !のアニメ」としてすごいところ

アイドルマスター ミリオンライブ !」がリリースされてからはや10年。ここまでの積み重ねがあると、一本のアニメとしてまとめるのは至難の業だったと思いますが、4話の時点でこれ以上ない形で「ミリオンライブ !」の魅力と歴史が結晶となっているのが分かる、理想のアニメになったと言っても過言ではないでしょう。

そんな「ミリオンライブ !」の魅力として、765プロの後輩であること」「ライブ」の2点がまず挙げられると思います。

765プロの後輩であること」については、まず「765PRO ALLSTARS(765AS)」という大きな先輩がいて、そこに向かって切磋琢磨し、ひいては「トップアイドル」を目指すという明確な目的につながります。目的がハッキリしているとドラマも作りやすく、アニメにする上ではプラスに働くでしょう。また作品全体で「アイドル」そのものが目的たり得るというのは、「アイドル」の裏側を描いたり「アイドル」を通した自己実現という形で物語を描くアイマスの中でも意外と珍しいかもしれません。

今回のアニメでもその構造はしっかり描かれていて、765ASのライブに心を打たれた未来と静香が憧れのアイドルを目指して頑張る姿を丁寧に描くという、王道の熱い構成になっています。これがまた歴代のアイマスアニメに以外と無い展開で(Pとアイドルが出会って物語が始まるアイマスでは、デビュー以前の切欠は深く描かれないことが多い)、オーディションに向けて未来と静香が熱心に練習する展開など、かなり新鮮に見ることができました。

余談ですが、765ASがちゃんと出てきて安心しました。ちゃんと「憧れの先輩」の風格があってASPとしてもニッコリ。「先輩」としての765ASが見れるのも間違いなくミリオンの大きな魅力で、出さなきゃ話が作れないだろうとも思っていましたが、まさかもあるので。

 

次に「ライブ」という点ですが、「ミリオンライブ !」と名前にもあるように、ミリオンはアイマスの中でもライブに強く力を入れてきたブランドです。そんなライブの魅力というのが、4話の時点であらゆる方向からかなり的確に描かれているのが本当に素晴らしい。

まず第1話では、未来と静香の視点で「観客」から見たライブの魅力が描かれます。会場までの道のりから、入場して席を探す(席を間違っちゃうのもあるある)、終演後は帰りながら感想を語り合ったりと、「観客」から見たライブがかなりリアルに描写されていて驚きました。ここまで観客の視点を掘り下げたのはアイマスでも初めてだと思います。

そして第2話で「演者」から見たステージに出ることの不安と楽しさ、そして生のパフォーマンスならではの感動が描かれます。あのオーディションでの未来・静香・翼3人の圧巻のステージは、現実におけるミリオンのライブが重ねてきた歴史が感じられて泣きました。あとこれは2回目で思いましたが、歌って踊るオーディションと静香のボーカル/ダンスアクシデントは強くアケマス/箱マスを連想させました。その後の静香の覚醒は思い出アピールとも言えるし、意図的かは分かりませんが「その手があったか!」と膝を打ちました。

第3話では、ライブを行う会場も必ず誰かの手によって作られているという視点が描かれます。未来たちが業者の方々に感謝を伝えるシーンは本当に素晴らしいし、めちゃくちゃ感動しました。

そして第4話ではいよいよ自分たちでライブを開催するぞとなります。しかしライブを開催するとなれば決めることが無数にあって、きちんと関係者の意思統一もしなければならないという、企画・製作の難しさが描かれます。ホワイトボードの前でウンウン企画を悩む姿がしっかり描かれる作品もなかなかないと思います。

そして第5話でいよいよライブ本番となると思われますが、ここまで多角的にライブについて描いた作品はなかなか無いと思います。観れば絶対ライブに行きたくなる。私も「ミリオン10thAct-3は配信でいいかな〜」とか思ってましたが、現地に行きたくなってしまいました。

 

このようにテーマ的な芯がしっかり通った上で、古参が喜ぶディテールも無数に配されているのがすごい。シアターが完成するまででグリマスを、一期生という形で輝きの向こう側へのバックダンサー組を、シアター完成後でミリシタを(多分)、細かい展開でゲッサン等を、この複雑ななパラレルワールドをここまでひとつの物語に綺麗に入れ込めるのかと戦慄を覚えました。しかもそれを12話でやってのけるという離れ業。

さらに驚くべきはそれが単なる目配せではなく、知らない人が見ても全然問題ないぐらい極めて自然に展開されているところです。本作を観るだけで楽しみながらミリオンの10年がざっくり分かるという決定版的な作品になったと言ってもいい気がします。まだ4話なのに。

 

「物語」としてすごいところ

扱わなければいけない構成要素が膨大な分、基本のストーリーラインは「アイドルに憧れた女の子が仲間と共に大きなステージを目指す」というシンプルな王道スポ根ものになっています。

展開としてもかなりベタな「友情・努力・勝利」で、それこそ子供でも分かるくらい台詞であれこれ分かりやすく説明されます(それらが端々に現れるキッズアニメ感の要因でしょう)。しかし、それぞれのキャラクターの葛藤の描き方が非常に丁寧で、見せ場のけれん味も申し分ないため、全く退屈には感じません。結局王道をちゃんとやれるならそれが1番強いということです。

 

ストーリーがシンプルなのは、描くべきキャラクターがかなり多いからというのも大きいでしょう。キャラが膨大な上に構成まで複雑にされたら何が何やら分からなくなってしまいます。

第4話までで登場するミリオンスターズは37人ですが、現時点で全員のキャラクター説明をやり切っているのが驚異的。なんなら説明を超えて、既に半分以上のアイドルの魅力を描けていると言っても過言ではありません。

オーディションや劇場の舞台説明をアイドルにやらせて世界観とキャラクターを同時に表現する手際の良さはもちろん上手いですが、限られた登場シーンでキャラクターの魅力を表現するのがさらに上手い。

例えばまつり姫であれば、登場シーンはただの奇矯な人物に見せておいて、その後の「現場大臣」以降のシーンでめちゃくちゃ気が効くウルトラ常識人なのが分かるといった具合に、短いシーンの中でもギャップを描くことでしっかりキャラクターに深みを与えることに成功しています。

桃子についても単に感じ悪い子ではなくて、第2話で「演技」について嫌な過去があることを匂わせたり、瑞希の手品に思わず笑ってしまう歳相応の面が見れたりと、桃子には桃子なりの事情があることが想像できる、十二分に深みを感じさせるキャラクター造形になっていたと思います。個人的には桃子を知った頃のとんがり具合を思い出して、懐かしさでニコニコでした。

今回のアニメで動きがつくことに1番恩恵を受けていた茜ちゃんも、単なるお調子者ではなく、チャンネル登録者数14人というのを見せることで、人気を得るために自分で考え努力している、頑張り屋で憎めない一面にも気づくことができます。

このような掘り下げまで至っていないキャラであっても、「アーティスト」「野球好き」「元子役」「中華屋の娘」「ダンサー」「プロレス好き」「農家」などなど、端的な説明でしっかり各キャラクターが分るようになっていて、やはり手際の良さを感じました(もともと「ミリオンライブ!」のアイドルが皆分かりやすい特徴を持った上に、魅力となるギャップをそなえて造形されているというのも大きいでしょう)。とはいえ人数が多く初見の人は「この子は誰だっけ?」となりそうなところで、毎話登場のたびに名前が表示されるのも分かりやすくて親切設計だと思いました。

 

他にも「合格一期生」という形で「輝きの向こう側へ」の目配せをしておきながら、他の展開と齟齬が生まれないよう「先輩も後輩も無い」とフラットな関係に戻すのを、百合子の成長に代表させる形で行なっているのもまた無駄がなさすぎて怖い。

未来の巻き込み力なんかもかなり魅力的に描けていて、こんな気持ちのいい「ザ・主人公」は久々に見ました。

 

本作が1クールらしいというのを知ったとき、例に漏れず私も「絶対尺足りないでしょ」と思っていましたが、4話までの手際を見て、「これは足りるわ」と安心しきりでした。むしろ圧倒的なボリュームに「まだ1/3なの!?」と思ってしまうぐらいです。

 

「アニメーション」としてすごいところ

本作はアイマスアニメ初の完全3DCGアニメ(とはいえ実は手描きも結構ある)ということで、どうなることかと思っていましたが、全く違和感なく観ることが出来ました。

 

アイマスで3DCGアニメと聞いて心配する大きな点は、ゲームとの差別化だったと思います。2011年のアニメ『アイドルマスター』からの流れでずっと手描きアニメに拘ってきたのは、もともと3DCGで歌って踊るゲームとの差別化の意味もあったでしょうし、ミリシタでは「アドバンスコミュ」でアニメ的な表現もかなり頑張っていたので、差別化はなお難しかったでしょう。

本作では影の付け方や輪郭線など、モデルがかなり2Dアニメっぽく調整されている上に、動きも単にヌルヌル動かすのではなく、あえてコマ数を減らしたりスローを使ったりして、2Dアニメらしいメリハリのついた動きになっているので「ゲームのカットシーン」のような印象は全く受けません。

レイアウトも凝っていて画面が単調にならないようにしっかり工夫されていますし、それでいてレッスン室や控え室などやたら出てくる鏡張りの部屋でキャラがガンガン映り込んでるのなんかは、手描きアニメでは大変なので(単純にキャラを描く労力が2倍になるので)あまりやらない、3Dならではの表現だと思います。

 

そして今回の3DCGアニメという選択による1番のメリットは、やはり全アイドルをきちんと出せるということに尽きるでしょう。

普通の手描きアニメだったら、40人近いキャラクターが登場して有機的に絡み合ったうえに一堂に会したりする第4話みたいな話はまず出来ないはずです。それだけの人数を描くだけでも大変なのに、それぞれキャラデザもしなきゃいけないし、それぞれにしっかり演技もつけなければならず、コストがあまりにかかりすぎます。しかもこの回はクライマックスでもなんでもないし、手描きアニメだったらもっとこじんまりした話になっていたでしょう。

39人全員揃ってのライブシーンはまだOPの「Rat A Tat!!!」の映像と、第2話の幻視シーンぐらいですが、「39人のライブシーン」自体手描きでやるのが困難なのでそもそもやろうと思わないでしょうし、この先どんな見せ方をしてくれるのかが注目です。

 

ライブシーンで言えば、第1話の765ASのライブシーンも3Dの良さが出ていました。特にロングショットで捉えられたステージはかなりフォトリアル的で、現実のアイマスライブにかなり近いように思えました。それはつまり、アニメから現実のライブに入りやすいということでもあり、ライブが強みのミリオンとしてはそう言った面でも3DCGはプラスなんじゃないかと思います。キャラクターの頭身の高さも、おそらくダンスが映えるように調整したのもあると思うので、今後のステージシーンも楽しみ。

 

3DCGアニメ、実際はピンキリで今回の白組の仕事が凄かったのは前提として、クオリティは高いわアイドル全員出せるわで、実際に観てみればこのやり方しかないベストな選択だったと思えました。

 

まとめ

というわけで様々な方向からアニメ『アイドルマスター ミリオンライブ !』について褒めてきましたが、正直4話の時点でこんなに褒めるところがあるとは思いもしませんでした。「まあ、色々気になるところはあるけどまだ4話だしね……」みたいなテンションになる可能性は結構高かったと思いますが、こんなに良い作品になって嬉しい限りです。

 

ほとんど文句は無いですが、強いて挙げるならプロデューサーのキャラクターでしょうか。極めてまともで良い人な分、基本受け身でキャラクターとしてはちょっと弱く感じました。もちろんアイドルを立てるためにあえてそうしてる部分も大きいとは思いますが、今後プロデューサーの活躍にも期待したいところです。

 

これがヒットするかは所詮時の運なので分かりませんが、少なくとも作品の出来自体は素晴らしく、老若男女誰でも楽しめる、ターゲットの広い作品に仕上がっていると思いました。

 

第2幕も楽しみ。

 

 

それでは今回はこの辺で。

 

消灯ですよ。