【読書】京極夏彦『邪魅の雫』感想

京極夏彦による人気小説シリーズ、通称「百鬼夜行シリーズ」の最新作『鵼の碑』が2006年の予告以来17年の時を経てついに刊行されることが発表されました。

 

そして、勿体無いからと『鵼の碑』が出るまで読まずに取っておいた『邪魅の雫』をとうとう読了しました。

 

本作のストーリーは、噛み合うようで噛み合わない「連続殺人事件」が発生し、そこに公安や探偵の縁談話が絡みはじめ事件は混迷を深めていく……という話。

 

久しぶりにこの「百鬼夜行シリーズ」を読みましたが、読んでいるうちにキャラクターや世界観も思い出せましたし、何よりこのシリーズの本質が分かりやすく感じられる話だったので、新刊に備えて読むのに丁度いい作品だったと思いました。

 

何がこの「百鬼夜行シリーズ」らしさかといえば、個人的には物理的なトリックよりも、「人の認知のズレ」を突き詰めたミステリーという点だと思います。

 

それぞれの人間が同じ世界に生きているようで、実際は全く違う「世界」を見ている。異なる「世界」が交わることも、分かり合うこともない。それにより生まれた謎を主人公・中禅寺秋彦が「憑き物落とし」を行うことで、それぞれの「世界」を解体・再構築して社会の中に接続するというのが本シリーズの基本的な構造ですが、本作『邪魅の雫』ではまさに「世界」という言葉を用いてかなり分かりやすく述べられていると思います。

今回トリック自体は単純と言えば単純なので、そういった「世界論」であったり構成の巧みさを味わうのが良いでしょう。

 

ともあれこれで『鵼の碑』を読む準備はできたので、発売までスピンオフなどを読みつつ楽しみに待ちたいと思います。

 

 

それでは今回はこの辺で。

消灯ですよ。