『劇場版 RE:cycle of the PENGUINDRUM[前編]君の列車は生存戦略』感想

『劇場版 RE:cycle of the PENGUINDRUM[前編]君の列車は生存戦略』観ました。

 

本作はTVアニメ『輪るピングドラム』放送10周年記念企画のひとつとして制作された、TV版の再編集+新規シーンで構成されたまさに「リサイクル」な映画の前編です。

 

直前にTVシリーズを観返したりはしましたが、劇場版に関してはあまり情報を入れずに観に行ったので、幾原監督の前作『さらざんまい』EDを思わせる実写とアニメの融合した映像や、直接的な続編となっている点には驚きました。

 

TVシリーズ最終回の後と思われる少年になった晶馬と冠葉が、「中央図書館そらの孔分室」で桃果に導かれ本に入り込む形で過去の物語を振り返るという構成がまず上手い。新作パートがある分、総集編であっても興味が持続しますし、その総集編にしても、大胆に再構成されていて「あの物語をこう組み替えるのか」という楽しみがあります。

 

登場人物ひとりひとりにスポットを当てていく構成になっていて、TVシリーズよりも各キャラクターの動機が分かりやすくなっていたと思います。多少駆け足な感はありますが、要点はしっかり抑えられていて、台詞を変えたり新作のカットを入れて違和感が無いように作られているので、謎で引っ張っていくTVシリーズよりも話の筋なんかはかえって分かりやすいかもしれません。

 

TVシリーズとの比較で言えば、今見るとちょっと古さを感じざるを得ない、パンツを覗いたりする類の描写はほぼカットされていて、今の感覚でも見やすくなっていました。その一方でプリクリ様がコスプレして牛乳一気飲みするくだりや、多蕗の家を訪ねた苹果が妄想するギャグシーンなんかは残っていて「そこは入れるのかい!」って感じで面白かったです。いちばん面白かったのは幾原監督が演じるメルシーケーキ屋のシーンが残ってたところ。

 

音楽も橋本由香利さんによって改めて付け直されているのでそこも新鮮。『ROCK OVER JAPAN』がプリンチュペンギンが入った新バージョンになっていたり、挿入歌としてトリプルHの新曲『YELLOW BLOOD』『ファクトリー』がちょうど「しばらく総集編か」と思ったタイミングでかかってまた興味が戻ったりと、その辺も構成が上手いなあと思いました。歌詞もピッタリ。あと真砂子の病院のくだりは映画館の音響で聞けて良かった。

 

構成で言えば、冒頭に続いて中盤に実写ベースの映像がそれなりの尺で再度挟み込まれるのですが、パンフで監督が「意識的に退屈な場所を作るのも必要」と語っていて流石だなあと思いました。実際このパートがあることで、単にストーリーを追うだけの総集編にならず、世界観に浸ることができ、メリハリがついてかえって退屈せず最後まで観ることが出来ました。入るタイミングとしても、晶馬が車に轢かれる展開の後なので重要な間としても機能していました。

 

新作パートはまだまだ謎が多く、どう転がっていくのか分かりませんが、あくまで綺麗に終わっている作品の続きとしてどうするのか気になるところ。『さらざんまい』で明確に「自己犠牲」を否定したことで「ピングドラムから変わった!」なんてことも言われたりしていましたが、別にピングドラムでも自己犠牲を肯定しているわけではなく「互いに分け合う」ことが主題だったと思うので(「自己犠牲」を繰り返す冠葉の行動も桃果の「乗り換え」も全て最終的な解決には結びついていない)、もしかしたらその辺りを改めて線引きするのかなあという気もします。

 

後編は7月22日公開。楽しみ。

 

 

それではこの辺で。

消灯ですよ。