【映画】『ザ・キラー』感想(ネタバレ)

Netflixで配信中のデヴィッド・フィンチャー最新作『ザ・キラー』、劇場にて鑑賞しました(暗いシーンが多く、重低音もかなり効いていたりので劇場で観るのがオススメ)。

 

主人公は凄腕の殺し屋だったが、ある任務で致命的な失敗をしてしまう。報復として恋人が襲われた殺し屋は、世界中を渡りながら復讐を始めるが‥‥という話。

 

個人的にフィンチャー監督の『ファイト・クラブ』がオールタイムベストで好きなのですが、主人公が偽名で世界中を飛び回るプライドの高い男である点や、モノローグで主人公が喋りまくる点など、本作はまさに『ファイト・クラブ』にかなり近しい、セルフオマージュかと思うほどの作品でした。

 

ファイト・クラブ』はそれなりの仕事につき、社会的にはそれなりに良いとされるであろう生活を送っている主人公が、型破りな男タイラー・ダーデンと出会い、最終的にはタイラーを乗り越えて 自分の本当の願いに気づくという話と要約できると思いますが、これを踏まえると、本作『サ・キラー』も理解しやすくなる気がします。

 

『ザ・キラー』は、全てがコントロールされた完璧な仕事をする(と自分で思っている)殺し屋がどんどんと予定外の出来事に振り回されていく話です。「予測しろ、即興はするな」と言いながらどんどんハプニングに見舞われていく様はもはやコメディー的。

もちろんギャグでもあると思いますが、これがどういう話なのかと言うのを考えた時に、終盤のティルダ・スウィントンとの問答がヒントになります。

「ハンターが大きな熊を撃つが、弾は外れていて背後から熊に食われるか犯されるかを選べと問われる。ハンターは生きることを選ぶ。同じことを繰り返しているうちに熊はハンターに言う、お前狩りが目的じゃないな?」

この話は要するに、ハンターは狩りが「失敗」することを望んでいるんじゃないかということで、本作の殺し屋も同じではないのかということです。

全てを予測して即興はせず完璧に仕事をこなす。それが最善だと思っている殺し屋が初めての「ハプニング」に遭遇して、徐々に「完璧」のつまらなさに気づいていくというのが本作の筋とも言えるのではないでしょうか。

だからこそ殺し屋は自分の言葉と裏腹の「ハプニング」に見舞われ続けながら復讐を続けていて、実のところ復讐よりも「ハプニング」に会うことこそが目的となっていったんじゃないかと思います。

それはまさに『ファイト・クラブ』でタイラー・ダーデンが語る「完璧を目指すのはよせ、それよりももっと…‥進化しよう」という台詞そのままで、完璧主義と言われるデヴィッド・フィンチャー監督の作品でこういった物語が展開されていると考えるのもまた面白いと思います。

 

 

それでは今回はこの辺で。

消灯ですよ。