2021年8月25日、「アイドルマスターシリーズ コンセプトムービー2021」として『VOY@GER』のPVが公開されました。
2011年のTVアニメ『アイドルマスター』の監督であり、現在では『シン・エヴァンゲリオン』の総作画監督でおなじみの錦織敦史監督を中心に、TVアニメ「アイドルマスター」チームが再集結。実際の内容もメンツに違わぬ素晴らしい出来だったので、秒単位で振り返っていきます。
まずは冒頭のイントロダクション。ARメガネとともに、これは近未来の世界であることが語られます。いきなり話はずれますが、コロナ禍以後の配信アイマスライブでもARが多用されていルものの、本来このような生で観つつエフェクトも重ねられるARメガネがあってこそだとは思います。(今回のPVはどちらかといえばVR的世界観ですが)
そこから各ブランドのテーマ曲とともに1からカウントアップ。迫ってくるカケラには各ブランドのゲーム画面が映っています。
ご愛嬌の誤字(多分IDOLM@"STER"に引っ張られてる。)
16周年を表す「16」の文字とともに錦織監督の名前が出たところで満を持して本編スタート。
ここの「To the future!!!!!」は冒頭の「Are you ready?」にかかっていて、ビックリマークも5ブランドに合わせて5つ並んでいます。後ろの「∞」は、16周年を超えてさらにその先を見据えていることを示しているのでしょう。
3Dプリンターのように転送されてくる春香。細かく出ている表示は「ARM」や「BODY」など今転送されている部位。宙に浮かぶ無数のパネルと、六角柱が組み合わさってできたステージがこの後どのように変化していくのかが、このPVの見どころのひとつ。
最初に春香が転送完了。エヴァ味を感じさせるイケメン。
そうして春香がソロで歌い始めるわけですが、時間差でメンバーが転送されて徐々に声が増えていくというこのはじまりがまず熱い。最高のライブ映画である『ストップ・メイキング・センス』や『アメリカン・ユートピア』でも採用されている間違いのない構成。まず歌っているアイドルの背後に転送途中のメンバーを映してから、次のカットで転送が終わったそのメンバーが歌い始めるという演出も分かりやすく的確です。
だんだんとメンバーが増えていく中、この1カットでも8人がそれぞれに移動しながらフォーメーション組んだりしていますが、この時点で気が遠くなるような作画カロリー。特に1番は常時そんな感じで15人が入り乱れるフォーメーションダンスがメインとなります。まずはオーソドックスな(しかし非常に手の込んだ)ダンスを見せるという意図があるのでしょう。この辺りは『THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!』でまず合宿所で劇場版クオリティの手描きダンスを見せて、クライマックスの『M@STERPIECE』でCGと合わせた1曲フルの大規模アリーナライブシーンを見せるという構成に通じるところがあります。ちなみに今回の『VOY@GER』は同じ1曲フルでも『M@STERPIECE』を軽く超える枚数で描かれているそう。
そしてタイトルとともにモノクロだった衣装に色が付くという、シンプルながら音楽も相まってアガる演出。
複雑なフォーメーションでも、このような俯瞰ショットを逐一入れて、位置関係をわかるようにしてくれるので混乱しません。(それにしてもそれぞれの動きが複雑!)基本的な演出ではありますが、基本をきっちり抑えて正攻法で攻めてくるところは錦織監督らしさを感じるところです。
1番のオーソドックスな見せ方の中でも、 衣装の柄がころころ変わっていくのが目に楽しい。こうしていちいち楽しませる要素を入れてくるのが偉い。
4人が入れ替わりで出てきて一斉にターンを決める。動きが気持ちよく、個人的に好きなカット。
Bメロでは一気にスペイシーな空間に変化。銀髪トリオが似合う似合う。
背後から正面を映すダイナミックなカメラで一気にサビへ!
サビではもちろん衣装もメインカラーに!やっぱりそうこなくては!
しっかりダンスを見せつつ、個別のアピールも入れてくる抜かりなさ。
一番は海美で〆。背景の継ぎ目を見れば分かりますが、よく見るとパネルが合わさって映像を写している形になっており、いきなり謎空間が出現しているわけではありません。なんでもありのアニメだからこそ、こういうディテールのリアリティは重要です。
1番が終わり、間奏でステージが変形します。フォーメーションを活かした1番から打って変わって、2番からはこのステージの高低差を生かした演出が見どころになっていきます。
まずはネオンカラーに輝くステージ(を構成する六角柱)の側面をバックに、春香と颯が互いを背に踊る形。春香と踊るのが、アイマス内で一番後輩なシャニの面子ではなく、シンデレラ新参組の颯というのが逆に新鮮(分かりやすい先輩ー後輩という関係性すら無いシンデレラの後輩組が一番765とは遠そう)。その間に背後のステージが下がってきて、次のメンバーが上から登場します。このシークエンスはいろんな角度からメンバーが登場してくるのが楽しい。
上から降りてきたメンバー3人のうち夏葉、海美がまず歌いますが、この時点で後ろの冬優子はまだ歌いません。これがのちの布石になっています。そして夏葉が歌うカットで右上と左上にいるメンバーを背後に映すことでその後の位置関係をしっかり示しています。
まず左上のチームに視点が移動し、歌い踊ったのち、指をさす振り付けで右上のチームにパス。右上のチームはそれを右回りのターンでうけて、左下を向く振り付けでスタート地点の中央下段のチームにパス。歌詞に合わせて後ろに木星や土星も映ったりしています。
中央にカメラが戻り、満を持して冬優子がセンターで歌い出します。3:40〜3:44でしっかり布石を打っているぶん、ここの逆三角形にカメラが動いていく流れが非常に綺麗で分かりやすい。
この直前に歌詞に合わせて木星や土星が映ったりしていましたが、同様に「いつか見た流星」の歌詞に合わせて奥から手前に流れる流星が、次のシーンにスムーズに移行するためのガイドのようにもなっています。よく見るとパネルが分離して円を描く間に、次にメインになるチームを残して他のメンバーが移動し、ステージごと下に退場しています(画面左下)。ここもまた急に他のメンバーが消えるような形にしない丁寧さが見て取れます。
そうして始まるのが360度回転するカメラで見せる迫力のダンスシーン。1番で平面のフォーメーション、2番でステージを活かした高低差のある演出、そしてこの間奏で360度ダンスと、演出がだんだん派手になっていく構成もちゃんとしている。それに加えてこの次にSideMの3人オンリーで見せるパートへの自然なブリッジにもなっています(この4人のパートもそうですが、急に3人になるのは不自然なので)。
SideMディビジョン。いかにもなラッパー動きもアニメーションとして改めて見ると面白い。人数差的にどうしても女性チームに埋もれてしまいそうなところ、きっちり見せ場を作ってくるのがニクい。ここでもステージ+パネルの組み合わせでできていたことを最後に示してリアリティを担保しています。丁寧。
最上部に居るSideMチームに下から迫り上がる形で次々とメンバーが合流していくカット。メンバーが合流していく流れは最初にありましたが、クライマックスにも重ねていくあたり余念がない。そして最後に合流するのが各ブランドで後から追加されたメンバーというのも良い。背後をよく見ると次の舞台となる街がワイヤーフレームで作られています。
最後の舞台となる街は、各ブランドのシンボルが並び、さながらそれぞれに拡大したアイマスワールドの象徴でしょうか。世界が新規追加組を受け入れて居るようにも取れます。
春香が天に指をかざすとUFO的な飛行物体から赤い光が。
赤い光アブダクションではなく、光の粒が現れ、衣装もバージョンアップ。仮面ライダーとかの強化フォームみたい。
動きに合わせてエフェクトが出るようになりました。
光の粒も、それぞれのアバターらしきものをまとった観客であることが分かります。これがまた構成としてしっかりしているところで、それまでのPV的に作り込まれた世界観も良いですが、観客=ファンに向かって歌う姿があることで「アイドル」であることを再確認させてくれます。
最後は各ブランドごとに歌って〆。曲の構成とか尺とかの問題もあるのでしょうが、この流れでSideMのパートが無いのだけはちょっと気になりました(多分ラップパートがその代わりってことなのかもしれません)。
曲が終わり、春香ひとりに。
すると突然場面が変わりスタジオのような場所へ。「これまでのPVは全部合成でした〜」とネタバラシするような展開です。これが何よりも偉くて、ぶっちゃけこれまでのPVもすごいですが、他の2次元アイドルコンテンツで出来ないかといえばそんなことはないわけです。ただこのバックステージで画面の向こう=プロデューサーに笑いかけるシーンがあることで、一気に「アイマス」になるのです。なぜならアイドルとプロデューサーの関係を軸にした裏側こそがアイマスの肝だから。この終わり方でもう1億点です。本当に錦織監督は信頼できる。
といった感じでここまでダラダラ語ってきたように、作品としてのクオリティが高いのは大体の人が感じるところだと思います。ただ問題はこのPVがアイマスにとってどういう位置づけかということです。人によってはそこがイマイチわからなくてピンとこなかった人もいるかもしれません。そこは多分「アイドルマスターシリーズ コンセプトムービー」というのを額面通り受け取ればいいんじゃないかと思います。ドームライブも普通にできるようになって、次の目標として(現在も実験は始まってますが)ARやらVRを組み合わせたライブをやっていこうというのを、より難易度の高い形で描いたのが今回のPVだったのだんじゃないでしょうか。まあ現状配信のARも上手く扱えているようには見えませんし、そもそもまともにライブも出来てないし、もうしばらく昔のライブには戻れそうもないので、このビジョンが実感できるようになるのはまだ先かもしれません。個人的にはまた錦織監督による素晴らしい作品を見れただけで十分です(というか長期的なビジョンがどうというより、一個一個の作品やライブを個別に楽しむ感覚になっているので)。何はともあれありがとうゴリたん!
それではこの辺で。
消灯ですよ。