【漫画】『ニセモノの錬金術師』感想(微ネタバレ)

漫画『ニセモノの錬金術師』を読みました。現在原作:杉浦次郎/作画:うめ丸という形で商業連載中ですが、原作の杉浦次郎先生によるラフ版(pixivやkindleニコニコ静画で無料で読ます)が既に完結しているということでラフ版を読み始めたら全く止まらず、結局続編や関連作まで含めて1日がかりで全部読んでしまいました。

 

 

 

初めは異世界チートものかつ奴隷の少女に優しくして良い気分になるような、よくある欲望丸出しのなろう系(それ自体は否定しませんが)といった印象でした。実際基本的な構造はその通りなのですが、読んでいくと思ったよりはるかに考えられていて、非常に高い倫理観のもとで作られていたのでそのギャップに一気に引き込まれてしまいました。

 

「奴隷を買った主人公がその奴隷に優しくして感謝され好意を持たれる」という型の話は、一見主人公が「良い人」でそれ故に好意を持たれているように感じられますが、その実主人公は奴隷制に与したうえで、絶対的な主従関係を利用して自分に都合のいい関係を作っているにすぎません。

本作『ニセモノの錬金術師』も構造としては全く同じなのですが、この問題を回避できているのは、ひとえに奴隷のヒロインであるノラさんのキャラクターによるところが大きいです。

ノラさんは奴隷の立場に置かれながらも全く主体性を失わず、主人公や奴隷という立場さえ利用してあっという間に自由を勝ち取ります。その後の主人公との関係も自分の利益を一番に考え、あくまで対等に進んでいくため「奴隷」という属性が持つ倫理的な問題を気にすることなく読み進めることができました。

 

一方主人公の錬金術パラケルススは度を越したお人好しの「良い人」ではあるのですが、その優しさゆえに相手の主体性を制限してしまっているのではと葛藤したり、自身のチート能力で無双するよりむしろ文字通り「ズル」をしている(ゆえに「ニセモノの錬金術師」)ことに負い目を感じていたりと、こちらも典型的な「転生者」の属性を持ちながらもよく考えられた人物造形がなされています。

 

このように本作の登場人物は皆確固たる主体性をもっていて、誰かの都合のいい存在であることを良しとしません。そしてそれは作者自身まで含まれているようで、本作の「神」的な存在が醜悪に描かれているのも、最終的には「神」に反抗していく話になるのも、「キャラクターを一番都合よく動かしているのは作者自身ではないか」という葛藤の現れとして読むこともできて面白いです。

 

またキャラクター同様世界観や設定も都合のいいものにならないようしっかり考えられていて、その結果ストーリーも通りいっぺんのものになっておらず、常に先が気になる内容になっていました(だから1日で全部読んでしまった)。

 

 

既に完結している続編の『スカイファイア』も良かったですし、現在継続中の第2部と『神引きのモナーク』(全てラフ版が無料公開中)も続きが楽しみ。ネームぐらいのラフな漫画でもこれだけ楽しく読めるのだと勉強になりました(残酷描写が苦手な人ならむしろラフ版の方が読みやすいかも)。全部オススメ。読めてよかった。

 

 

それでは今回はこの辺で。

消灯ですよ。