今年の黒沢監督作品は『蛇の道』のセルフリメイク、短編『Chime』に続き3本目。これだけ新作が観れるだけでも嬉しいのに、本作 『Cloud クラウド』は序盤からは想像もできないようなところへ連れて行ってくれるサービス盛り盛りな作品で、観てる間中ずっとニコニコでした。
序盤はクリーニング工場で働きながら転売で儲ける男の日常が描かれます。
この時点から不穏な演出が冴え渡っており、明るさが急に変わる先輩の部屋、『悪の法則』を連想させるワイヤートラップ、背後で「何か」に見られる感覚、それらを見ているだけで楽しいのですが、個人的に序盤の演出で特に好きだったのは停電のシーン。
主人公・吉井が夜に部屋を片付けていると突如部屋が停電してしまう。ふと窓の外を見ると退職した職場の上司が佇んでいる。呼び鈴を鳴らす上司。吉井は息を潜めるが最悪のタイミングで停電が復旧して電気がついてしまい、居留守がバレてしまう。
この一連の流れには 「よくこんな嫌な展開思いつくなあ」とニコニコが止まりませんでした。
大アクションに展開していく後半も見どころがたくさんあって、やはり楽しいのはかなりの尺で展開される銃撃戦。
小火器はもちろん、対ライフル、対ショットガンなど、銃の特徴に合わせた空間の使い方が見事で、堂々たるアクションシーンに仕上がっていたと思います。
そしてここからの活躍がすごいアシスタント・佐野の存在感。
車の部品を投げ込んだ犯人を捉えたとき、その犯人の怯えようから只者ではないことが示されていましたが、松重豊演じる売人から銃を受け取るところでいよいよ一般人ではないことが分かると同時に、作品世界が一気に広がる感じがして異様なワクワク感がありました。
松重豊はこの一瞬のみの出演ですが、他でもない松重豊が佐野くんに敬意を払っているということで、その後の展開に強い説得力を与えていたと思います。
その他、心の通じてないカップル、透明のビニールカーテン、スクリーンプロセスを用いた車描写など、黒沢清作品に期待する要素も全部見せてくれて、全編通してファンにはたまらない至福の時間でした。
黒沢清イヤーの締めに相応しい、 この先も頻繁に見返したくなるような傑作でした。幸せ。
それでは今回はこの辺で。
消灯ですよ。